番犬現る

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番犬現る

子供の頃は嫌な事があると泣いて泣いて泣きはらして忘れた。 大人になるにつれて泣く方法を忘れ、多少嫌な事があっても胸に秘めて我慢するようになっていた。 涙の代わりに大人はアルコールを体に流し込んだり、スポーツで汗をかいたり、歌を歌って発散して何とか正気を保っている。 だから嫌な事が続いたこんな日は、朝から一人カラオケをして、昼過ぎから体験レッスンのキックボクシングで汗を流し、格安居酒屋に行きアルコールを体に流し込んだ。 最近、運動もせず、お酒も飲まない習慣となった私にとって、これは大きな負担を体に強いていることなど百も承知だ。 でも叫ばずには、動かずには、酒を飲まずにはいられない日が人生に1度や2度はあるだろう。 まともに歩ける状態だが、安い酒を大量に摂取して私の気持ちは大きくなっていた。 生きていりゃ、きっと人生なんとかなる。 そんな風に思いながらあてもなく、ただふらふらと歩いていると人気のない短いトンネルが見えてきた。 「トンネルだ!」とぼそっとつぶやきスキップしながらトンネルに近づいた。 トンネルなんかに喜びが湧き上がるのは完全にお酒のせいに違いない。
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