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昼、深く
声をかけられて振り返ると、街角にひとりの少年が立っていた。
相手が中学生だとわかったのは、彼女もよく知る有名私立校の校章が刺繍されたブレザーを着ていたからだ。制服姿でなければ、小学生にさえ見えたかもしれない。
「いま、なんて?」彼女が問い返す。
「ですから、僕と一緒に食事をしてほしいんです」まだ変声期もむかえていない幼さの残る声のせいで、その訴えは余計に憐れみを誘った。「もう、三日もなにも食べてなくて……」
付け足すように言いながら、少年が肩越しに背後をちらちらと窺う。その視線を追うと、雑居ビルの物陰に彼と同じぐらいの年頃の子供たちが三人、鈴なりに顔を並べていた。
彼女と目が合った拍子に慌てて引っ込める直前まで、彼らの顔にはにやついた笑みが三者三様に浮かんでいた。
そういうことか。彼女は少年がいまどのような立場にあって、そして自分がなにに巻き込まれようとしているのかを理解した。
このまま三人の悪童どもがふたたび顔を出すのを待って、思い切り睨みつけてやろうか……そうも思ったが、やめた。
それから彼女はこの茶番にとことん付き合ってやろうと決めた。ほんの気まぐれから出た結果だった。
「もう三日もなにも食べてないのか?」
「え? は、はい……」
「そのわりには顔色も良いようだが?」
彼女の指摘に、寒さで血行の良くなった少年の丸い頬がさらに真っ赤になる。直立して身を固くしている姿は、まるでマッチ棒のようだ。
「すまない」彼女は続けた。「高圧的に聞こえるだろうが許してくれ。こういう話し方が身に染みついているんだ。じゃあ、そこのファミレスでいいか?」
「あ……」少年は彼女が指す方向を見た。その目元は事態の展開に対する驚きで彩られている。「でも僕、お金持ってないです」
「三日も食べてないなら無一文なのも当然だろう」
とにかく行こう。言いながら彼女は強引に少年の手を引いて、店へと入っていった。
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