昼、深く

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 食事を終えたふたりは駅に向かった。  並んで歩いていくとややあって、駅前ロータリーを囲むようにして建ち並ぶビル群が見えてくる。そのうちの一棟、高級シティホテルが目的の場所だった。  一階の広々としたエントランスにはフロントに加え、バーカウンターをしつらえたラウンジも併設されている。  彼女はラウンジでオレンジジュースを注文して少年を待たせると、彼がそれを飲み切らないうちにフロントから戻ってきた。 「支配人と話をつけてきた」彼女は言った。「早速行こうか」 「あの、僕まだジュースを飲んでなくて……すみません、せっかく注文してくれたのに」 「いいさ。それより、あの三人はまだいるね?」 「はい。さっき生垣に隠れてるのが見えました」  彼女はラウンジの大窓の外に向けられた少年の視線を追って頷くと、ゆったりとした足取りでフロントを横切っていった。  途中、レセプションカウンターの中に収まった支配人の男に手を振ってみせる。相手はそれに頭を下げて応じた。このやりとりを見ながら、少年は早足で彼女のあとについていった。 「きみのことはわたしの姉の息子だと説明しておいた」エレベーターに乗り込んでふたりきりになると、彼女はそう言った。「つまり甥っ子と叔母さんだね。久しぶりに会って積もる話もあるから部屋で話したいと言ったんだ。歳の離れた姉弟と言いたいところではあったが、何事も信憑性というのは大切だからね」  少年はなにも言わなかった。 「もっとも、それでも勘ぐってくる人間はいると思う。だが少なくともきみに迷惑はかけないよ。ここの支配人も口は堅いんだ」 「あの、お姉さんはどうして僕にここまでしてくれるんですか? それにこんな凄いところに泊まってるなんて、お姉さんってどんな人なんですか?」 「部屋に入ったら最初の質問には答えよう。もうひとつの質問は……悪いが答えられないな」  少年がなにか言うよりも先に、エレベーターが目的の階に到着する。  廊下には誰もおらず、物音ひとつしなかった。床に敷かれた絨毯もふたりの足音を吸いこんでしまう。  並んだドアのひとつの前で立ち止まった彼女がドアのプレートにカードキーをかざすと、開錠の音ばかりがいやに大きく響いた。 「さあ、どうぞ」  ドアをくぐった先は短めの導線を経て寝室になっていた。 「悪いが見せられるのはこっちの部屋だけだ。隣は書斎なんだが、いろいろと散らかっているんでね」  彼女の言葉どおり、寝室の奥は収納式の引き戸で区切られていた。引き戸を開放すれば部屋はふたつ続きになるのだが、その半分でも充分な広さがあった。  寝室の一角にはソファとともにロウテーブルが置かれ、壁にかけた大型テレビと差し向かいで鎮座するベッドは大人三人が手足を伸ばして寝られそうなほど大きい。 「シャワーを浴びたければバスルームを使ってくれ。タオルもあるし、ご自由にどうぞ。上着はクローゼットにしまっておくといい。しわになるからね」  言いながら彼女は靴を脱ぐと、ベッドの上に身を横たえた。身体の下に敷かれた羽毛の上掛けが彼女をゆっくりと包みこむ。枕は頭を乗せるまでしわひとつなかった。  仰向けに寝る彼女が深くゆっくりと息をつくそばで、少年はハンガーにかけたブレザーをクローゼットにしまった。 「これからどうするんです?」 「待つ」彼女はそう言った。「計画はそれだけだ」  少年はしばしその場に立ち尽くしたが、それからソファに腰かけた。ちょうど、寝ている彼女の横顔が見える位置だった。
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