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第1章 9 険悪な雰囲気
「ああ?何だ?お前は…」
亮平は不機嫌そうな顔で井上君を見た後、背後にいた私に声を掛けてきた。
「鈴音、この男…お前の彼氏か?」
「違うよ、会社の同僚だけど?」
「へえ〜会社の同僚がわざわざ鈴音の家に来るかねえ…?だけど、今この家には誰もいないんだ。もう鈴音を連れて来たんだから用事は済んだだろう?さっさと帰れよ」
亮平は腕組みしながら井上君を見た。
「何でお前にそんな事言われなくちゃならないんだ?」
井上君は険しい顔で亮平を睨み付けている。何だか険悪な雰囲気だ。
「大体なあ…こんな遅い時間まで仕事してたんじゃ無いんだろう?どうせ下心丸出しで鈴音に近付いたのかもしれないが…悪い事は言わない。鈴音は辞めておけ。ガサツで乱暴なところがある女だからな。」
「アハハ…それは言い過ぎなんじゃない?」
そんな風に私は亮平に見られていたなんて…。私は内心のショックを隠しながら笑って胡麻化した。すると、井上君が先程よりも険しい顔つきになった。
「おい!お前…加藤さんの幼馴染と言っていたが幾ら何でも失礼じゃないか?!加藤さんは明るくて、職場を盛り上げてくれる素敵な女性だ!彼女を貶めるような言い方はやめろっ!」
「い、井上君…」
私は井上君の今まで見せた事も無い姿に驚いてしまった。
「さっきから何なんだよ。お前は…もう俺は家の中へ入らせて貰うからな。え…とお前、井上…だっけ?鈴音の家に上がらずにさっさと帰れよ。お前が家にいたら帰宅した忍さんが驚くだろう?じゃあな」
亮平はそれだけ言うと家の中へ入ってしまった。
「「…」」
取り残された私と井上君。2人の間に沈黙が流れる。井上君は亮平が消えたドアの方を未だに見つめているし…。き、気まずい…。
「加藤さん」
突然井上君が振り向くと話しかけてきた。
「な、何かな?井上君」
「あいつだろう?加藤さんが話していた幼馴染って…」
「う、うん…そう…だよ…?」
何だろう?井上君…すごく怒っているように見えるけど?
「ねえ…もしかして怒ってる…?私何か井上君を怒らせるような事しちゃったかな?」
身に覚えがないけど一応聞いておこう。
「確かに怒ってはいるけど…」
「ああっ!やっぱり!ごめんなさいっ!ひょっとして映画の事で怒ってるのかな?私が怖がって画面あまり観て無かったから…」
私は平謝りした。
「ち、違うよっ!そんな事でなんか俺は怒っていないって!むしろ加藤さんの意見も聞かず、勝手にあんな映画に連れて行って申し訳ないと思ってるくらいなんだから…!」
井上君は慌てたように言う。
「え…?それじゃ…?」
「俺が怒ってるのはさっきの男の事だよ」
「え?もしかして亮平の事?」
「そうか…あいつ、亮平って名前なのか…」
井上君は忌々しそうに呟くと、パッと顔を上げた。
「悪い事は言わない。加藤さん、あの男だけはやめておいたほうがいいよ」
「え…?」
「あの男は加藤さんに対して誠意の欠片も無いじゃないかっ!俺だったら最初に電話貰った段階で、駅で待つように言ってすぐに迎えに行くけどね。それなのにあの男はどうだ?電話を貰っても断ったんだよね?それで加藤さんは仕方なく1人で帰宅途中に襲われて…。まあ、でも最終的に迎えには来てくれたようだけどね」
私は井上君には黙っていようと思った。亮平が最終的に迎えに来てくれたのは、お姉ちゃんに命じられたからだって事は…。
「う、うん…。そうなの。ああいう所はあるけど…優しい一面もあるんだよ?」
但し、お姉ちゃんに対してだけだど…ね。
「それじゃ、加藤さん。俺はもう帰るけど、戸締りしっかりしてね。また明日」
「うん、今夜はありがとうね。又明日」
すると井上君は笑顔になり、手を振って駅へと引き換えしていった―。
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