第1章 1 私と姉の事

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第1章 1 私と姉の事

 チーン  ゴールデンウィーク明けの初夏―。  部屋に中にはお線香の匂いと、お仏壇の鐘の音が部屋に漂っている。仏壇には父と母の遺影が飾られている。 「…」 目を閉じてお仏壇の前に座り、手を合わせていると私の5歳年上の姉が部屋に入って来た。 「あら、鈴音ちゃん。まだお仏壇に手を合わせていたの?」 「うん、今朝は朝礼が無いからゆっくりで大丈夫なの。それに連休が終わったばかりだから、7月までは少しだけ仕事が楽なのよ。私はまだ新人だから大した仕事まだやっていないしね」  私はお姉ちゃんを見上げながら言った。お姉ちゃんの名前は忍。妹の目から見てもお姉ちゃんは美人だ。色白でおしとやかで…家事などはお手の物。一流商社に勤め、しかも同じ年のイケメンサラリーマンと婚約迄している。8月にはハワイで挙式を行う予定になっているのだ。 「ほら、それじゃ鈴音ちゃん。一緒にご飯にしましょう?お姉ちゃんもお仏壇に手を合わせていくから、ご飯とお味噌汁、よそっておいてくれる?」 お姉ちゃんはお仏壇の前に座りながら私を見た。 「うん、任せておいて。それ位どうってことないから」 立ち上がると、私は仏壇の部屋を出て台所へと向かった。築20年、リフォーム済みの我が家は閑静な住宅街にある二階建ての一戸建て住宅だ。 ここに私とお姉ちゃん…2人で寄り添うように生活している。私は今年大学を卒業したばかりの新人OL。両親は…私が大学に入学した年に飛行機の墜落事故で無くなってしまった。当時、父は外資系の商社マンで母と2人でアメリカで暮していた。そして、事故に遭った日は私の誕生日で、久々にまとまった休みが取れた父は母を連れて私の誕生を祝う為、日本へ向かう飛行機に乗り…そこで悲劇が起こった。  それはとても悲惨な事故だった。 乗っている乗客乗員は全員死亡が伝えらえ、私とお姉ちゃんの元に届いたのは死亡の知らせと焼け焦げた遺品のみだった。何度も何度も航空会社の責任者が謝罪に訪れ…莫大な慰謝料と引き換えに私達の両親は永遠にこの世から消えてしまった。  幾ら億単位の賠償金を貰っても、そのお金には限度がある。私は大学を辞めて働こうとしたが、お姉ちゃんが必死でそれを止めた。大学位、私が働いで出してあげると頑なに言って私の意見に耳を貸さなかった。だから私はお姉ちゃんの言葉に甘え、両親がいないにも関わらず、4年生大学を無事卒業する事が出来たのだ。そして卒業後の今はかねてからの希望である旅行会社に就職し、現在新人として働いている。    鼻歌を歌いながら、ご飯とお味噌汁をよそっているとお仏壇に手を合わせたお姉ちゃんがリビングへとやって来た。 「あ、お姉ちゃん。丁度良かった。今準備が終わった所だから一緒に食べよう?」 お姉ちゃんの方を振り返り、笑顔で私は言った。 「そうね、鈴音ちゃん。食べましょうか?」 そして私とお姉ちゃんは広いテーブルに向かい合わせに座ると、手を合わせた。 「「いただきます」」 今朝のメニューは炊き立てご飯に豆腐とわかめの味噌汁にゆで卵と味海苔に納豆。それを2人で向かい合わせに食べているとお姉ちゃんが言った。 「それにしても鈴音ちゃんが旅行会社に入ってくれて本当に助かったわ」 「え?どうして?」 「だって、鈴音ちゃんのお陰でハワイでの挙式プランをスムーズに計画する事が出来たもの」 お姉ちゃんはニコニコしながら言う。 「いやいや、それを言うならむしろお礼を言うのは私の方だってば。お姉ちゃんと進さんのお陰で私の営業成績、支店の中の新人で一番になれたんだから。正に感謝感激雨あられよ」 ちなみに進さんと言うのはお姉ちゃんと同い年の婚約者である。彼もまたとても優主な人で外資系の証券マンなのだ。 「でも…お姉ちゃん本当に良かったの?この家で私と3人で住むなんて。新婚家庭になるのに…何だか2人の邪魔しちゃうみたいで申し訳ないな…」 私はポツリと言った。お姉ちゃんと進さんは結婚後、この家で一緒に暮らす事になっているのだ。するとお姉ちゃんが箸をカチャンと置くと言った。 「また鈴音ちゃんはそんな事言ってるの?何回も言ってるでしょう?私に取って、鈴音ちゃんは進さんと同じ・・・比べられない位大切な妹なんだよ?家族なんだから一緒に暮らすのは当然じゃないの」 お姉ちゃんは真剣な顔で私を見つめている。 「うん…有難う。お姉ちゃん」 そう、お姉ちゃんはとても優しい人なのだ。だから私はそんな優しいお姉ちゃんが大好きだ。だから自分の身を犠牲にしても・・・大好きなお姉ちゃんには絶対に幸せになって貰いたい。 私はずっとそう考えていた。 そして、それがどれ程に辛く、身を引きちぎられそうなほどに苦しい物だと言う事をこの時の私は、まだ何も気づいていなかった―。
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