第3章 5 戻りつつある日常

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第3章 5 戻りつつある日常

 翌朝― ベッドで眠っているとお味噌汁の匂いが漂ってきた。う~ん…お味噌汁…? 「え?!」 慌ててガバッと起き上がると時刻は午前6時。 「やばいっ!寝過ごしちゃったっ!」 今日は早番の日だったから家を8時には出なくちゃいけない。だからその前に洗濯機を回して、朝ごはんを作ってお姉ちゃんに食べさせて、洗濯干して、お掃除して…ああ、やることが山積みだったのに…! 「急がなくちゃっ!」 急いで着がえをして下に降りて…台所に人の気配を感じた。え?ま、まさかっ! 慌てて台所を覗くと、そこにはエプロンを付けて朝ごはんの支度をしているお姉ちゃんがいた。 「あ、鈴音ちゃん。おはよう」 お姉ちゃんは恥ずかしそうに声を掛けてきた。 「お、お姉ちゃん…」 するとお姉ちゃんは私に近づいてくると、そっと背中に腕を回して私に言った。 「ごめんね。鈴音ちゃん。今までずっと…私の面倒を見てくれて…」 私はお姉ちゃんを抱きしめながら聞いた。 「お姉ちゃん…もう大丈夫なの…?」 「うん。もう平気よ。まだお仕事に復帰できる自信は無いけれども家の事なら出来るから任せて」 「お姉ちゃん…っ!」 私は強く抱きしめると、お姉ちゃんも強く抱きしめ返してくれた。その力強さが泣けてくる程嬉しかった―。  お姉ちゃんが作ってくれたほうれん草と油揚げのお味噌汁、胡瓜のお漬物に、厚焼き玉子と焼き鮭に白いご飯。2人で会話をしながら食べる食事はとても美味しくて、幸せを感じた。 「お姉ちゃん、朝ごはんすごく美味しいよ」 笑顔で言うとお姉ちゃんも微笑んでくれた。 「そうね。私も昨日から食べ物を美味しく食べられるようになったわ。鈴音ちゃんが買ってきてくれたチーズタルトもすごく美味しかったし」 お姉ちゃんはお味噌汁を一口飲むと言った。 「良かった。ホールで買ってあるからまだ冷蔵庫に残ってるよ。今日おやつにでも食べたら?」 「う~ん…。そうだ、鈴音ちゃん。今日はお仕事早番でしょう?お仕事が終わって家に帰ったら一緒に食べましょうよ」 お姉ちゃんの言葉に頷く。本当に亮平のお陰だ。一体どんな魔法の言葉をお姉ちゃんに掛けたのかな?私じゃ全然駄目だったのに…。やっぱりお姉ちゃんには亮平が…。 「そうだっ!お姉ちゃん。まだチーズタルト半分残ってるから仕事が終わってから亮平に家に寄れないか連絡入れてみたら?」 するとお姉ちゃんは笑顔で言った。 「そうねえ…それもいいかもね。そうだ、もし亮平君が来れるなら、夜御飯も食べて行ってもらったらいいかも。それじゃ後でメールをしてみるわ」 「うん、それがいいよ。きっとお姉ちゃんの誘いなら亮平は喜んで来ると思うよ」 多分私が頼んでも駄目だと思うけどね…。 そして私はお姉ちゃんの焼いた玉子焼きを口に入れた―。 「はい、お弁当。」 お姉ちゃんが出勤する私にランチバックを差し出して来た。 「え…?お姉ちゃん、これ…」 「ふふ…朝の食事と少し内容がかぶってしまったけど…」 「ありがとう、お姉ちゃんっ!」 ランチバックを抱えてお礼を言うと、お姉ちゃんの顔に笑みが浮かんだ。 「行ってらっしゃい、鈴音ちゃん」 「うん!行ってきますっ!」 お姉ちゃんに手を振って、玄関を出て亮平の家を見た。 「…」 以前だったらこの時間はお姉ちゃんも出勤する時間。そしてそれに合わせて亮平も玄関から出てきて2人は一緒に駅に向かって並んで歩いて行ったけど…今のお姉ちゃんは休職中で家にいる。だから亮平もまだ出てきていない。きっと自分の出勤する丁度良い時間に家を出るんだろうな。 「亮平…」 少しだけ寂しい気持ちを抱えながら、私は駅に向かった―。
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