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第1章 4 私のランチ
駅前を通り過ぎる人達に声を掛けながらビラを配っていると井上君が戻ってきた。
「お待たせ、加藤さん」
「あれ…?早かったね、井上君。もしかしてもう2時間経過してるの?」
「そうだけど…?何?時間も忘れてしまう程集中して配っていたって事?」
井上君に言われて腕時計を確認すると、確かに1時間経過していた。
「うわお!本当だ…もう13時半になろうとしてる…」
「それで、どの位配れた?」
井上君が足元に置いてある段ボール箱をチラリとみると、もう箱の中のビラは3分の1程度までに減っていた。
「へえ〜なかなかやるじゃん。後は俺に任せて食事に行ってきなよ。加藤さんが戻る頃にはビラが無くなってる様に頑張るからさ」
井上君の言葉に私は嫌な予感がした。
「ねえ…ひょっとしてまさか、このビラが無くなるまでお店に戻っちゃいけないって事は無いよね?」
すると何を思ったか、井上君が人差し指を立てて左右に振りながら言った。
「チッチッチ…甘いね、加藤さん」
「え…?甘いって…?」
「うん、甘すぎる。これを配り終えたら、また会社に戻って次のビラを配るんだよ。1日のビラ配りの目標は600部らしいからね」
「ええ~っ?!そ、そんなあ…」
「まあ、まあ。それ位俺と加藤さんの2人にかかればちょろいって、そんな事より食事に行っておいでよ」
井上君はダンボールからビラを取りながら言った。う〜ん…お昼かあ…何食べて来ようかな?そうだ、井上君に聞いてみよう。
「ねえ、井上君はお昼ご飯何食べてきたの?」
「うん?俺?俺はね、丼定食屋さんで牛丼食って来たよ」
井上君は両腕にビラを持つと言った。
「定食屋さんかあ…ねえ。女性客のお1人様っていた?」
「うん、いたいた。4〜5人位はいたかな?俺が行った店は牛丼以外にもうどんや蕎麦、他に親子丼もあったしね。大体ワンコインで食べられるから給料日前で苦しい今の俺にはぴったりの店だよ」
そして井上君は溜息をつきながら言った。
「はあ~…それにしても次の給料日まで、あと1週間もあるのかあ…きっついな…。もう少し安い家賃のアパートへ引っ越すかな…」
段々話がお昼ご飯からずれてきたので、私もそろそろ退散しよう。
「それじゃ、お昼食べに行って来るね」
井上君に手を振りながら言った。
「ああ、行ってらっしゃい!」
彼も笑顔で手を振り返してくれた。さてと、それではお昼ご飯を食べに行こうかな…。
私は繁華街へと足を向けた—。
様々なお店が立ち並ぶ歩行者天国へやって来た時、私はあるお店の前で足を止めた。
「へえ~こんなお店あったんだ…」
そのお店は全面ガラス張りで店内の様子がよく見えた。壁も床も天井もお洒落な木目調で、丸テーブルや椅子も全てアンティーク風な木材で出来ている。店の中は若い女性客ばかりで、バスケットに入ったランチボックスを美味しそうに食べている。
「このお店…お洒落でいい雰囲気かも…。よし、決めたっ!今日はここで食べようっ!」
ドアに手を触れて開けるとカランカランと鐘の音が店内に響き渡った―。
「う〜ん…美味しいっ!やっぱりこの店を選んで正解だったっ!」
私が今食べているのは、トマトとレタスの上にエビとアボガドが乗っているオープンサンド。アボガドの濃厚なおいしさと、少し塩味の付いたエビの味がカリカリのトーストに絶妙にマッチして、とっても美味しい。それにセットメニューのポタージュもクリーミーで最高だ。
「このお店…気に入った。お姉ちゃんにも教えてあげたいな…」
私は姉の顔を思い浮かべながら、美味しいランチに舌鼓を打った―。
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