第1章 6 現れたのは

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第1章 6 現れたのは

「うう…どうしてこの辺りは人通りが少ないんだろう…。街灯も少ないし…何より…」 チラリと私は住宅街を歩きながら右側を見た。右側は小高い丘のようになっており、その上をJR線が走っている。しんと静まり返った住宅街に、時折激しい音を立てて通り過ぎてゆく電車の音…そして住宅街が一時的に途切れ、草がぼうぼうに生えた空き家が1軒、この先にある。 実はこの空き家で痴漢騒ぎが1カ月ほど前に起きていた。被害に会ったのは女子高生。部活動の帰りにこの道を通った少女が、突然空き家の敷地から現れたサングラスを目深に被った男によって空き家に連れ込まれそうになった。大声で叫んだ少女は、たまたま運良く、通りすがりの犬の散歩をしていた男性に発見された。そして犬が大声で吠えた為に慌てて不審人物は逃げ去り、少女は無事だったと言う。 その後…今から3日前までは警察のパトロールが行われていたのだが、事件から1カ月が経過し、再び同じ事件が起こらなかった為にパトロールは終了したのだけど…。 「犯人が捕まるまではパトロールしてくれればいいのに…」 ビクビクしながら私は住宅街を歩いていく。そして、もうすぐ女子高生が襲われかけた場所の前を通過する。もう、あの前は走って通過するしかない…。 私は息を吸い込むと、走り出した。空き地を通り過ぎても私は走った。 そして50m程走り抜けてようやく息を吸い込んだ時に突然背後から何者かに口を塞がれた。 「!」 その瞬間、あまりの恐怖と驚きで私の心臓は一瞬止まるのではないかと思った。 「…」 背後から私の口を塞ぐ手は恐ろしい程力が強い。そしてグイグイと私を例の空地へ引きずって行く。 「う~ッ!!」 口を塞がれているので声を上げる事も出来ない。 いやだ!怖い怖い怖いっ!! いくらもがいても振りほどけない。男は私の口を塞いだまま、ずるずると私を空地へ引きずり込む。しかし、次の瞬間男がバランスを崩して地面に倒れた。 当然私も地面に倒れこむ。するとサングラスの男が倒れた私の上に右手で口を塞ぎ、覆いかぶさると言った。 「へへへ…ここでも構わないか…」 ま、まさか…この男はここで私を…?! 恐怖で目に涙が浮かび、何とか逃れようと両手をバタバタ振った時、偶然地面に伸ばした私の右手に棒が触れた。 「!」 私はその棒を掴むと、思い切り男の右肩を殴りつけた。 バキッ!! 激しい音と共に男の悲鳴が響き渡る。 「ギャアアッ!!」 今だっ!私は身体を起こすと強く棒を握りしめて男と対峙した。 「こ、このアマ…っ!」 再び、男が私に飛びかかってこようとその時― 「お前っ!何やってるんだよっ!」 突如、背後から何処かで聞き覚えのある声が聞こえてきた。振り向くとそこに立っていたのは亮平だった。走って来たのだろうか…肩で息をしている。 「亮平っ!」 私は涙声で叫んだ。亮平…来てくれたんだ…! 「何だ?お前は…?」 サングラスの男は右肩を抑えながら亮平を睨み付けている。 「鈴音!こっちへ来いっ!」 亮平に名前を呼ばれて私は走って亮平の背後に回った。 「貴様…いいところで邪魔しやがって…」 サングラス男は亮平に飛びかかって行った。亮平の右手にはいつの間にか棒が握りしめられている。男の正面からの突進を軽々避けると亮平は思い切り男の左の脛を棒でたたきつけた。 「ギャアアッ!!」 あまりの激痛にもんどりうつサングラス男。すると近所の誰かが通報してくれたのか、パトカーがサイレンを鳴らしながらやって来た。そして私たちの前で止まると同時に中から数名の警察官が飛び出し、あっという間に男を捕らえてしまった。 「く、くそっ!!離せッ!!」 男は激しく暴れるもパトカーの中に押し込まれ、1人の警察官を残して走り去って行き、私と亮平に向き直ると言った。 「少し、お話を伺ってもよろしいでしょうか?」 私と亮平は顔を見合わせ、頷いた―。
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