プロローグ 結婚するって本当ですか?

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プロローグ 結婚するって本当ですか?

 7月 大安吉日の日曜日― 私は海辺にひっそりと建つ小さなチャペルに誰よりも一足早くやって来ていた。新郎新婦はまだ来ていない。空を見上げれば雲一つない青空が広がっている。海から拭く潮風をもっと身体に感じたくて、目を閉じ、両手を広げて思い切り吸い込んだ。 「何て清々しい陽気なんだろう…」 そして目を開けると改めて眼前に立つ教会を見上げた。海を背景に、草原の中にひっそりと建つ美しい教会。真っ白な壁で出来た建物は左右に大きな赤いとんがり屋根が付いている。入口は大きなアーチ型でお洒落な木の扉になっている。まるで1枚の大きなアートのような風景だ。この教会で結婚式を挙げようと決めたのは新郎新婦と私の3人。本当は私なんかが2人の結婚式に口を挟める権利は無いのに、何故か2人は私にも選んで欲しいと強く訴えて来たのだ。だから申し訳ないけれども教会選びに参加させて貰い、3人でここに決めたのだった。 中央には時計台もあり、てっぺんには当然の如く大きなベルが取り付けられている。時刻は午前8時をちょっと過ぎた所だ。式は10時からだから、私は2時間も早くここへ来てしまった事になる。 「お姉ちゃん…今頃心配してるかな…。それに‥亮平…」 ポツリと呟き、思わず目頭が熱くなってくる。 「駄目だな…私ってば…こうなる事をずっと願っていたはずなのに…いざとなると…こんなに辛いなんて…」 私は涙が出てこないように必死で楽しい事を考えた。お姉ちゃんと2人で旅行へ行った事…亮平と一緒に学校帰りにファミレスに行った事…3人で居酒屋に行ったり、カラオケをした事…。駄目だ…。結局私の楽しかった思い出は全て姉と亮平に関わる事ばかりだ。 私はますます悲しみが込み上げてきて…ついに堪えきれなくなり、涙が溢れだしてきた。一度流れ出した涙は止まる事を知らない。そう、私が式の2時間も前に教会へやって来た目的は…今から涙が枯れ果てるまで泣く為にやって来たのだ。だってそうでもしなければ、私は悲しみに耐えきれず、2人のおめでたい結婚式の最中に泣きだしてしまうかもしれないから。 ごめんなさい、お姉ちゃん…亮平…。 本当は2人の事をお祝いしてあげたいのに…今はとてもそんな気持ちになれないよ…自分で決めた事なのに。全ては覚悟の上だったのに。 神様、どうかお願いします。 2人が式を挙げている間…私が泣きだしませんように…。 2人の幸せを心から願えますように…。 私はいつまでもいつまでも両手で顔を覆って泣き続けた—。
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