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「今、どこにいますか?」
「え…」
私は声がうまく出せなくなっていた。急に掛かってきた非通知の電話。初めて聞くが、この声は間違いなく私が次のターゲットとする女の声だ。そう直感した。
電話の女は異様に落ち着いた様子の、30歳前後の声だった。電話口の向こうで微笑しているかのようにさえ聞こえた。
もう、思い出せないくらい長い年月、この任務を遂行してきたが、こんな経験は初めてだった。心の中で、落ち着け、落ち着けと何度も自分に言い聞かせる。しかし、携帯を持つ手は自分でも煩わしい程に震えていた。いつも私はターゲットをこんな恐怖に陥れていたのかと、混乱しながらも自身のしてきた事の恐ろしさを実感した。
「もしもし、今どこにいますか?」
女はもう一度私の所在を尋ねる。その声は一度冷静を取り戻しかけた私を再び恐怖と緊張のどん底に突き落とした。見知らぬ女からの電話はこんなにも恐ろしいものなのか、と思った。
そもそも、何故電話番号を知っているのか?そして、何故私の居場所を執拗に尋ねてくるのか?
私が過去にしてきた事を考えると、そして相手がそれを知っているとすると、非常にまずい自体だ。
そもそも彼女の目的は何なのだろうか…?やはり私を消しに来ているのか…?
するとまた女が口を開いた。
「もしもし?まだ私の後ろ、来ないんですか?」
「…………」
「それなら」
「私があなたの所まで向かいますね、メリーさん。」
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