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取引終了を告げる甲高(かんだか)い鐘の音が、高い天井を跳ね返って部屋中に鳴り響く。 「あー、やっと終わった…」 アレックスは肩を伸ばしながら、周りに聞こえるように大きい声で言った。 「ようアレックス、今日も飲み行くか?」 ジョシュはそう言って煩わしそうにスーツを脱ぐと、慣れた手つきで綺麗に畳み、目障りなほどの光沢を帯びた革のバッグに押し込んだ。ジョシュとアレックスは大学からの友人で、同じウォール街の証券会社に勤めている。仕事が終わると、二人で近くのバーに飲みに行くのが常であった。 二人はエレベーターに乗ってビルを後にすると、外れにある派手な繁華街を歩いた。街はいやしい配色の電光掲示板で埋め尽くされ、一際高いビルに掛かった巨大なスクリーンから延々と広告が流れていてやかましい。エンジン音のうるさいスポーツカーがひっきりなしに街を擦過(さっか)していく中、ジョシュは(おもむろ)に口を開いた。 「ところで、明日は休みなんだからさ、今日こそは朝まで飲めるよな?」 「おいおい勘弁してくれって。お前と違って、俺にはがいるんだよ」 「女ってまさか、この前バーにいたあの?お前さぁ、よく考えてもみろよ。もっと良い女はたくさんいるだろ?」 「安心しろ、ただ金と体を借り合うだけの関係だ。心配には及ばないさ」 「そうかい。…って、それなら別に飲んでもいいじゃないか」 「あーそうなるか…。じゃあ、純愛ってことにしてくれよ」 「ハハ、そんなことが通用するかよ」
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