第二部 窮地

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「大阪府警もさすがに、証拠もないのに逮捕したりしないはずだ。和泉を陥れるためのニセの証拠だろうけど、ある程度の信憑性があったってことだよな」  葛木は呟きながら、メッセージをそのとおり入力する。でも、そのニセの証拠のイメージは沸かない。《それが何か知りたいわね》と夏帆の返答がある。 「和泉さんは知ってるはずですよね。なぜ、自分が逮捕されたのか。和泉さんに話を聞くことができればいいんですけど――」  芽衣の言うとおりだ。しかし、逮捕後四十八時間の勾留中は、弁護士以外の面会はできないことになっている。和泉は弁護士を呼ぶような性格とは思えないし、もし呼べたとしても、必ずしも味方になってくれるとは限らない。それに、和泉だけでなく七係全員と協力してもらわないといけない。 「まさか――ね」葛木は嫌な予感が頭を過ぎる。夏帆のことだ、もし自分自身が動けていたら、弁護士のふりをして和泉に会いに行くと言い出しかねないのだったが、それができない今、そういうとんでもない役割を振ってくるとしたら――「俺は無理だからな」葛木は思わず声に出して呟き、「何がですか?」と芽衣が不思議そうに聞いた。 「いや、弁護士の振りをさせられるのかと思って」 「夏帆先輩なら思いつきそうですね。そういうのは私も自信ありません。それこそ、和泉さんだったらうまく演じ切るかもしれませんけど」  そうなのだ。和泉はそういうシチュエーションに強い。だが、その和泉自身が逮捕されているのだから、意味のない話だ。何とか、和泉とコンタクトを取りたいところだが。 《とにかく、和泉から話を聞かなきゃね。鴨さん、あたしの言った場所に着いた?》 《着いたで。今から会ってくるけど、大丈夫やろか》 《鴨さんが事情を説明したら、あとはあたしが電話で直接話すわ。急ぐんだから、何でも利用できるものは利用するまでよ!》  夏帆の指示で、すでに鴨林が何か動いているらしいということは解った。大阪府警に知り合いでもいて、それを頼ろうということか? 何にせよ、夏帆のやることに間違いはない。今までだって、ずっとそうだった。夏帆の判断を信じて、七係のメンバーは各々動き、事件を解決してきた。今回だって――でも気がかりなのは、この事件にはタイムリミットがあることだ。早く新大阪に着け――窓の外には、晴天に包まれた富士山がある。
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