第二部 窮地

14/20
前へ
/56ページ
次へ
 歩きましょうか。芽衣が言い、二人は近くの大通りである谷町筋に出、広い歩道を並んで、天王寺駅に向かって歩く。 「和泉刑事と会ってきましたよ」  七瀬は和泉の話をなるべく正確に伝える。あの異常にポジティブな雰囲気が伝わったらしく、芽衣は何度かクスリと笑いながら聞いていた。 「じゃあ、やっぱり沢口マリを探さなくちゃいけないってことですね。さっき、夏帆先輩が鴨さんに指示を出してたんですけど」 「彼女と、被害者のつながりも調べる必要がありそうですが――タイムリミットまでに、可能かどうか」 「問題はそこなんです」芽衣の眉がハの字になった。「府警側からの情報収集は、さすがに難しくて――門前払いでした。仕方ないので、取材に来ていた報道関係者から情報収集したんですが、大した情報は持ってなくて。むしろ、情報開示が少なすぎるって、府警側に対してとても怒ってるくらいでした」 「府警が情報を止めてる? 被疑者の早期逮捕は府警にとってはお手柄ですよね。どうして――」 「現職の警察官が被害者ですし、被疑者でもある事情で、きっちり証拠固めができるまで慎重になっているんだと思います。あと、和泉さんは警視庁の所属ですから、上層部同士で調整してるんだと思います」 「逆に言えば、それってチャンスですよね。正式発表がある前に和泉刑事の無実を証明できれば、傷口はかなり少ない」 「ですね」  芽衣はうんうんと何度も頷いた。二人はあべのハルカスを真正面に臨みながら、谷町筋の歩道を歩き続ける。 「私、これから葛木さんと合流して被害者、竹井遼子の事件までの行動を調べるように夏帆先輩から指示されました。七瀬さんは竹井遼子と沢口マリの関係性を洗ってもらえますか? 私たち警視庁の捜査員が、被害者を直接調べるのは難しいところがあって」 「解りました。被害者の身辺は任せてください」 「ありがとうございます」と芽衣はパッと明るい笑顔で言った。天王寺駅の駅ビルが見えてきたところで、七瀬はふと立ち止まり、「そうそう」と三宅の名刺を見せる。 「捜査本部の中にも、和泉刑事の逮捕に疑問を持っている三宅警部補という方がいて、独自に沢口マリの足取りを追っているようです。何か手掛かりがあれば、教えてほしいって頼まれました」  三宅の名刺を受け取った芽衣は、それをスマホで写真に撮って七瀬に返してきた。 「信頼できそうな方ですか?」 「ちょっと頼りなさげでしたけど、いい感じの人ですよ。責任者の加藤管理官は嫌な男でしたけど」 「そうですか。捜査本部内に協力者がいるのはありがたいですね。――でも、七瀬さん、本当に大丈夫です? 男運悪いですから――」  変わらずニコニコ笑顔の芽衣に、さらっと毒を吐かれた。否定できないところが哀しい。
/56ページ

最初のコメントを投稿しよう!

65人が本棚に入れています
本棚に追加