第三部 逆襲

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         【九】情報  三宅からの連絡で、天王寺で会うと捜査本部の他の捜査員の目についてしまうという理由で、待ち合わせは地下鉄天満橋に変更になった。天満橋は京阪電車と地下鉄谷町線が乗り入れている駅だ。京都に住んでいる七瀬は、京阪電車で大阪に出てくるときには何度か利用したことがある。駅の周囲には高層のオフィスビルが立ち並んでおり、また京阪本線と並走するように流れる大川が望める。  空は少しづつ、夕焼けに向かっている。今日は時間があっという間に過ぎたような、とてつもなく長いような、不思議な感覚だった。七瀬は駅前のコンビニでおにぎりと野菜ジュースを買って、大川の遊覧船の船着場を眺めながら、マスクをずらしてそれらを頬張った。 「お待たせしました」  三宅警部補が静かに表れた。七瀬は口元を手で隠し、唇に付いたおにぎりののりを舐める。 「いえ、食事しててすみません」 「いいですよ。腹が減ってはなんとやらですからね」  三宅の口調は穏やかだ。加藤の意地の悪い口調や、千田の激しい関西弁を聞いていたから、余計にそう思う。  歩きましょうと促されて、七瀬は三宅の隣を歩き、大川にかかる天満橋を渡った。そこから川の方へと降り、毛馬桜之宮公園へと入っていく。上流の桜之宮橋まで大川に沿って歩ける公園だ。 「造幣局の桜の通り抜け、来たことあります?」  歩きながら、三宅が尋ねた。そうか、造幣局は桜之宮橋のすぐ傍だったっけ。造幣局の桜の通り抜けは、桜の季節に開催される関西随一の桜の一大イベントらしいが、「写真でしか見たことありません」と七瀬は首を振った。 「いっぺん、ぜひ来てみてくださいよ。桜並木、なかなかのもんですよ」 「関西に住んだからには、一度は来たいと思ってるんですけど」 「平坂さんは、もともとこっちの人じゃないんですよね? 言葉遣いが違うから」 「ええ。二年ほど前まで、東京に住んでました」 「じゃあ、和泉刑事とも東京時代の関係ですか?」  世間話から、さり気なく本題に入ってきた。話の導入はうまいなと思いつつ、七瀬の弁護士としてのセンサーが反応して、「クライエントとの関係については守秘義務がありますから」と防御壁を張っておく。三宅がいくら味方になってくれそうでも、警察という組織に対するアレルギー反応のようなものだった。とは言え、警察官を弁護することになっているのだから、何だか皮肉だが。  三宅は「ですよねえ」と穏やかに頷く。 「解ります。クライエントのことを話せへんっていうのは。でも、私はあなたの味方ですから、信用してくださいよ」 「ありがとうございます」と七瀬は頭を下げた。 「その後、何か進展はありました?」
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