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思わぬ知らせに、行動には出さなかったが、七瀬も思わず心の中でガッツポーズだった。
「どこで見つかったんですか?」
《今、梅田らしいです。芽衣ちゃんが尾行中です》
「まだ、捕まえてはないんですか?」
《確保はまだです。現場にいるのは芽衣ちゃん一人ですから。俺も今、向かってるところです。府警より先に抑えないと》
「でもこれで、和泉刑事の無実が証明されればいいんですけど――」
《沢口マリを確保しただけでは、何の証拠にもならないでしょうけど、でも、大きな一歩前進ですから。平坂さんは天王寺北署に戻って、もう一度和泉と会う準備をしておいてもらえませんか?》
「解りました」
七瀬は頷いた。雲は少しずつ朱に染まり、空は秋の夕暮れに変わっていく。
殺人犯捜査七係の刑事たちの仕事の速さには舌を巻かざるを得ない。動き出したのは今朝のはず、ましてや、大阪に着いたのは昼前だったはずだ。ほとんど半日かけずに、重要参考人の居場所を掴むとは。どんなからくりがあるのか解らないが、これなら、私はいらなかったんじゃ――なんて思ってしまう。
いや、そうじゃない。今、和泉刑事に会えるのは私だけだ。私はそのために呼ばれたんだから。自分のやるべきことをやろう。
「沢口マリはどこにいるんですか?」
三宅の一言で、七瀬は我に返った。
「梅田だそうです。まだ、尾行中だそうです」
「解りました。私も梅田へ向かいます」三宅は力強く頷き、思わぬことを言い出した。
「平坂さんも、一緒に来られます?」
「いえ、私は天王寺北署に戻って、和泉刑事に再度接見します」
「そうですか。でも、それは沢口マリから話を聞いてからの方がいいんじゃないですか? それに――」
三宅は申し訳なさそうに頭をかいた。「警視庁の捜査員と、私は連絡取れませんし、平坂さんが一緒にいてくれると助かるんですけど」
なんだ、そういうことか。確かに、三宅が一人で梅田に行ったところで、すでにマリや七係の刑事たちが移動していては立ち往生してしまう。
「解りました。じゃあ、一緒に行きましょう。でも、一つだけ――」
七瀬は言い、人差し指をピンと立てる。「沢口マリの初回の聴取には、必ず私を同席させてください。それが条件です」
「ええですよ。交渉成立や!」
三宅は嬉しそうに手を叩き、足早に歩き出した。
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