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とにもかくにも、不穏な思いを抱えたままではあるが、四人は梅田駅から地下の食堂街へ移動した。大人が行きかうのもやっとな、細い通路の食堂街の中、グルメサイトでも高評価のたこ焼き屋で各々たこ焼きを買った。大阪に来て半日、葛木はやっと大阪らしい食事にありつけたのだった。
もちろん、ただただ、たこ焼きを食べながら時間を無駄に過ごしていたわけではなかった。待つのに慣れている葛木と鴨林はともかく、七瀬と三宅が理由なく二時間待てるわけはない。その場で情報共有していたわけだが、もっとも進展があったと言えるのは鴨林の掴んできた、ふぐ毒に関する情報だった。
鴨林の調べでは、北新地のてっちりを出す居酒屋で、処分されるべきふぐの有毒部位の紛失があったという。あくまで噂レベルだが、同業者の間で広まるそうした話には信憑性があるものだ。
ふぐを営業目的で調理、処理するには、大阪府の指定の講習を受けたふぐ取扱登録者の有資格者である必要がある。ふぐの有毒部位は専用の容器で保管し、各店舗で厳格に保管され、保健所の指導のもと指定の方法で処分される決まりになっている。
しかしながら、中には人手不足を理由に、ふぐ取扱登録者ではない者に厨房でこっそりふぐを処理させたりしている店もある。そうした違法な店には、実態を把握した時点で、保健所やあるいは所轄生活安全課の生活環境係から指導が入る。厳密にルールを守っている店としては、そうした違法な店の噂が流れれば風評被害にもつながるため、保健所や警察への情報提供は惜しみないのだった。
鴨林が情報を仕入れたその北新地の居酒屋は、最近、ふぐ有毒部位の保管管理が不適切だと、保健所から指導を受けたのだという。保管は必ず鍵のかかる金庫のような場所で行われる必要があるが、その店では、鍵のかからない場所に保管していたそうだ。
「で、おもろいのはここからや」鴨林はたこ焼きを頬張りながら言ったのだった。
「二つあってな。一つは、その店、大阪府警の加藤管理官の行きつけらしい。店主が加藤の知り合い――というか、昔、加藤がパクった窃盗の常習犯が服役して出所して、更生してやってる店らしい。で、加藤もよく出入りしているんやと。もう一つは、その店から最近、バイトが一人辞めてる。その男も加藤がパクったことのある窃盗の常習犯やった四十代の男なんやが、一週間前に店を突然辞めてる。でな、辞める前に、近々大金が入るって言うてたらしいんや」
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