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常識的な生活の中で、大金が入る機会なんかそうはない。宝くじがギャンブルか株か、合法的な手段ならそのあたりだろうが、どれも確実に大金が入ってくるものではない。ということは、非合法的な金だった可能性が大だった。加藤が捜査三課にいるときから、職場の宴会などでも利用していたらしいから、もしかしたら竹井遼子との面識があった可能性もある。
加藤への疑念が深まる一方で、身内のアラ探しが目の前で繰り広げられている格好になった三宅は終始無言のままだった。
「三宅さんは、加藤管理官の不正疑惑についてはどうですか?」
葛木が尋ねると、三宅は頭をかいて、「よく解りませんけど、警察官としては可もなく不可もなくのよくいる中間管理職ですけどね」と答えた。
「不正をしていた様子はないってことですか?」
「まあ――正直、悪い噂は聞かなかったんですよね。でも、確かに金回りは良さそうだって話でしたけど」
加藤の不正とは金がらみであることは間違いなく、千田も《ケチなゆすり》《小遣い稼ぎ》だと言っていたが、しかしその決定的な証拠はない。誰が被害者で、どんな悪事だったのかはっきりしない以上は、この情報が切り札になることは難しそうだった。それに加藤一人の悪事だったわけではなさそうだということも気にかかる。仲間がいるとするならば、そいつらも一蓮托生、悪事は一網打尽にしなければならない。
「でも結局、その話と和泉刑事の誤認逮捕を結ぶ線っていうのは、被害者の竹井遼子さんと沢口マリの二人なんですよね」
七瀬の言うとおりだった。和泉がその悪徳警官を追っていた、だから嵌められたというなら解りやすいのだが――どうして和泉を嵌める必要があったのか、そこも謎だ。そうして結局、事件の鍵は沢口マリであるということにたどり着き、そうなると芽衣と連絡が取れなければならない。
鴨林と葛木は繰り返し電話を鳴らし、ラインでメッセージを入れているが反応はない。
「西岡警部補は、何か知ってるんじゃないんですか?」七瀬は眉をしかめて言った。
「あの人のことですから、敵を欺くにはまず味方からとかで――本当は正木刑事の行方も知ってるんじゃないですか? もしかして、葛木さん、鴨林さん、あなた方も知ってるんじゃないですか?」
七瀬の厳しい追及に、葛木は必死に首を振る。
「僕らは本当に何も知りませんよ。とりあえず、夏帆たんにはもう一回電話をしてみますが」
しかし電話はつながらない。取らないのではなく、話し中のようだった。夏帆は夏帆で何か動いているのは確かだが、一緒にいないために、夏帆が何を考えて何をしているのかが、いつも以上に解らない。
七瀬と三宅は待ちくたびれたという表情で、あともう少しで堪忍袋の緒が切れそうな様子だったが、その寸前でやっと、芽衣からの連絡が入った。
《連絡できなくてすみません。スマホの電池が切れてしまって。やっと、携帯充電器が手に入ったので連絡できました》
「無事ならいいんだ」葛木は言う。「で、芽衣ちゃん、今どこ?」
《USJの近くです。電車に乗り継いで、大阪市内をウロウロしています。で、彼女にさり気なく近づいて、スマホの画面を見たんですけど、二十二時にコスモスクエア駅の近くで待ち合わせがあるみたいですよ》
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