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「雇い主との待ち合わせかな?」
《そうかもしれません――あ、しまった! タクシーに乗られました! すみません! 追う手段がないです――》
「解った。でも、二十二時にコスモスクエア駅だっけ? そこに来るのは間違いないんだから、待ち構えるしかないね。芽衣ちゃん、こっちに合流できる?」
《了解です。でも、二十一時半に、直接、現地でもいいですか? おなか減っちゃって》
「解った。じゃあ、現地で」
葛木が通話を切る。いつの間にか三宅がすぐそばに移ってきており、「二十二時にコスモスクエアですね。こっからはウチでやります」と言った。
「でも、捜査本部は和泉逮捕で決着方向なんでしょう? 沢口マリを押さえるために動かせる捜査員がいるんですか?」
「その辺はうまくやりますから、任せてください。あなた方の出番はここまで。そもそも、警視庁の捜査員がウチのシマで勝手に捜査していることって、問題ですよ!」
三宅は言うが否や、踵を返して立ち去ろうとするが、そこに追いすがったのは七瀬だった。
「待ってください! 沢口マリを押さえたら、初回の聴取には同席させてくださる約束だったでしょう!」
そんな約束をしていたのか。葛木が三宅を見やると、彼はにやりと口元を歪め、「そんな約束、しましたっけ」と言い放ち、そして足早に立ち去って行った。
「ズルい――だから警察は信用できないんです」
七瀬が憮然と腕を組む。葛木は頭に手をやり、そして鴨林を見た。鴨林はニヤニヤしながら、どうぞと手のひらを上に向けた。
「あの、平坂さん」
葛木が言った。「こんなことを言うと、また、だから警察は――とか言われそうなんですけど」
「何ですか? あなた方も私に隠しごとですか? 私に仕事を頼んだのはそっちでしょ。信頼して、何でも話してもらわないと!」
「だから、今話そうと――って言うか、これはあくまで俺の想像なんですけど」
「想像?」
「ええ。多分、加藤の仲間の悪徳警官って、あの三宅警部補だと思うんですよ」
七瀬の目が見開かれた。
「どういうことですか? 三宅さんが、どうして? だって彼は、和泉刑事の逮捕に疑問を持っていたって言うんですよ。真犯人なら、和泉刑事が逮捕されたのは、むしろ喜ばしいはずじゃないですか?」
「だから、あくまで想像なんです」
「想像する、その根拠は?」
「芽衣ちゃんの行動――連絡が取れなかったのは、多分、三宅警部補を罠に嵌めるための準備をしてたんだと思うんです」
「は――?」
「多分、夏帆たんの指示で」
七瀬がため息をついて頭を抱えたその気持ちは、葛木にはよく解る。敵を欺くにはまず味方から。夏帆の思考パターンから考えると、おそらくそういうことだったのだろう。そして、何らかのきっかけで三宅に目を付けた。その三宅がすぐそばにいる状態で、葛木や鴨林に、あるいは七瀬に指示を出すことはできない。ということで、芽衣に直接指示を出し、三宅を罠に嵌める準備を進めていたのだろう。
「また私、囮に使われたってことですか――」
七係の捜査員は全員、何を考えているのか解らないがとにかく夏帆を信じてついて行く習慣が身に付いているが、そうではない七瀬はウンザリした表情だった。俺も七係に加わったときは、こんな感じだったなあ――おっと、そんなことを呑気に考えている場合ではない。夏帆は何か、こちらにも指示したいことがあるはずだ。葛木は夏帆に電話をかける。
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