第三部 逆襲

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              *  まったく、手間を取らせやがって。三宅はコスモスクエア駅の駅前、バス乗り場の柱にもたれ掛かって煙草を咥えていた。コスモスクエア駅は地下鉄中央線と南港ポートタウン線、通称ニュートラムの接続駅だ。ニュートラムは大阪湾を臨みながらワールドトレードセンター、南港のフェリーターミナルを経て住之江公園まで続いている。  コスモスクエア駅の北側は大阪湾、南側は区画整備された地区で、マンションや大学が立ち並ぶ。少し歩けば大阪府の咲洲庁舎、インテックス大阪などもある。イベントごとのある時期などはコスモスクエアもにぎわうのだが、コロナ禍のこの時期、しかも二十一時を回ったこの時間は静かなものだった。  張り込みには向いてない場所だ。この時間に待ち合わせに使われるような場所ではないし、バスにも乗らず長時間バス乗り場に突っ立っているのは不自然だ。車を飲めておく場所もない。しかも、バス乗り場は高架上になっているため、一応近くにコインパーキングはあるが、そこからは駅の出入り口が見えないのだった。  あの女、一体ここで、誰と会うつもりなのか。  時刻は二十一時十五分。三宅は二本目の煙草に火をつける。  沢口マリが昨日の夜、天王寺から姿を消したのは大きな誤算だった。ちゃんと首輪をつけていたはずだったが、俺たちもちょっと考えが甘かったことは認めよう。しかし、こっちには切り札がある以上、沢口マリの打つ手は限られているはずだったが、だからこそ、そのまま丸一日姿を消すとは思わなかった。一体あの女、どこで何をしてやがったのか。  スマホに目をやる。仲間に送った確認メッセージに、異常なしの返信がある。マリからの連絡もないようだ。焦ってはいけない。こちらには切り札がまだ生きている。三宅は小さく深呼吸する。竹井遼子が不正の証拠となる音声データを入手したと聞かされたときほどの焦りはない。あのときはさすがに血の気が引いた。だから証拠隠滅のために準備期間も少なく、焦って実行に移してしまったことはよくなかった。それも反省点だが、とにかく竹井遼子が死んだ今、あとは証拠の音声データを取り返すだけだ。  沢口マリさえ押さえれば――そうだ、マリと言えば、彼女を追って警視庁の刑事がついてきてしまったことも誤算だったし、そいつを犯人に仕立て上げて逮捕したら、その仲間が飛んできたことも誤算だった。お涙頂戴のスポ根アニメかって。仲間意識出して。所詮、警察官は地方公務員なんだから、大人しくしていればいいのに。  まあでも、彼らのおかげで沢口マリの居所が掴めたのだから、結果オーライや。  三宅はぐるりと周囲を見渡す。マリの姿はないし、マリと待ち合わせていそうな人影も、それからあの鬱陶しい警視庁の刑事たちの姿もない。二十二時までもう少し。三宅は残りの煙草の本数を数える。
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