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「保護ってどういうことですか? 逮捕じゃなく?」
三宅はあくまで惚けてみる。たぶん芽衣は、俺たちが沢口マリを使って不正の証拠の隠滅を図り、竹井遼子を殺し、和泉を嵌めたことを知っている。だが、証拠はあるのか。そして、マリは本当のことをこいつらに話したのか。
そもそも、芽衣の狙いは何だ。ここに一人で現れて、何がしたい?
芽衣はニコリと笑って、「いつまで惚けるんですか?」と尋ねてきた。
「素直になった方がいいと思いますよ?」
「言ってる意味が解りませんね。惚けてるとか素直になるとか――」
「往生際が悪いですね」
芽衣の表情はにこやかなままだったが、その瞳に見据えられた三宅の背中に、冷たいものが走った。この気味の悪い感覚は何だ。たじろぐ三宅に、芽衣は「もう、証拠はそろっているんですよ」と追い打ちをかける。
「竹井遼子さんが所持していたあなた方の不正の証拠を盗み出すためには、彼女が確実にそれを持っているところを狙う必要があります。だから彼女を、天王寺へ呼び出したんですよね。府警の監察官を名乗ると、バレる可能性もありますから、近畿管区警察局の監察官を名乗って、彼女を呼び出したんですよね。その道中で、彼女から証拠品を盗む役割を与えられたのが、沢口マリです。彼女は腕のいいハコ師でした。彼女も、ある意味被害者の一人ですよね」
「一体、何を言うてるのかさっぱり解らんわ」
三宅の視界の隅には、二人の仲間の姿が見える。少しずつ、さり気なく、こちらに近づいてくるその姿を見て、三宅は少しだけ平静を取り戻していた。
「あなた方の不正というのは、あなたたちが逮捕した、あるいは逮捕すべきだったのに見逃した犯罪者たちからお金をたかったり、警察官と犯罪者という立場を利用して、自分たちに有利になるようなことをさせたり、そういう悪質なことだったんですよね。マリさんも、言ってました。弱みを握られて、協力せざるを得なかったって。警察官は他人の人生を救うこともできますが、壊すことも簡単です。マリさんは更生して、今はまじめに働いているようですが、それでも過去が消えるわけじゃなりません。ですから、今の職場でも、いつ自分の前科がばれるんじゃないかと思って、ドキドキしながら生活されていたようです。そういう気持ちを、あなたたちは利用したんですよね」
マリが喋ったか。しかし、証拠は何かあるのか。
仲間の姿が少しずつ大きくなってきた。
「元犯罪者の生活を壊すのは簡単です。本人の近所や職場で、堂々と警察だと名乗って、その人の写真でも見せながら聞き込みをすればいいんです。本人の味方になれない人の間で、噂はすぐに広がって、本人はその場所にいられなくなります。次の場所でも、次の場所でも――そして、恐怖心を植え付けたら、あとは簡単ですよね。それを利用して、脅して、自分たちの都合のいいように利用すればいいんですから」
「そのやり方だと、脅迫の証拠も残らんしね」
三宅は自嘲気味に言った。それは事実だ。芽衣はうんうんと頷き、「聞き込みは警察官の職務ですもんね」と言う。
「あとは、勝手に相手が恐怖心を抱いてくれます。その恐怖心があるところに、優しい警官のふりをして近づく。わざわざ脅さなくても、恐怖心が先にありますから、相手を操るのは簡単です。シンプルですけど、これをしないと何々がどうなってもいいのかみたいな脅迫がない分、証拠の残りにくいやり方ですね」
「そう、証拠です。証拠がない。俺たちが、そんな悪質なことをしていたっていう証拠が。そんなものがあるんですか?」
「もちろん」芽衣が手を叩く。「ありますよ?」
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