エピローグ

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 事件を解決したあとに食べるところてんが一番美味しい! もちろん、ところてんはいつだって美味しいんだけど。夏帆は、本日、五パック目のところてんをすする。 《夏帆たん、ところてんを楽しんでるとこ悪いんだけどさ》電話の向こうで、葛木が困り声で言った。 《大阪府警の事情聴取を受けるのは俺たちなんだから、詳しいことを教えてもらわないと――》 「そんなこと、適当に答えときなさいよ。ホシは逮捕できたんだから、それでいいじゃん。そもそも、その三人は大阪府警の膿よ? 府警が、自分たちで何とかしなさいって話じゃない?」  警察は大きく強固な組織だからこそ、自浄作用が弱すぎる。一人の不祥事は全体の不利益。だからこそ自浄作用がしっかり働かなきゃいけないのに、逆にその不祥事を隠そうとする働きばかりが作用している。だから悪徳警官が蔓延っちゃうのよね。ヤになるわ、ホント。  そうは言っても、葛木は自分が理解できていないことに対しては喰い下がってくる。 《いやいや、ちゃんと説明してくれよ。俺だって解らないことが多いまま、動いてたんだからさ》 「鈍いわね。で、何から知りたいの?」 《順番に、最初から》 「まず、このヤマにとって最もイレギュラーな要素は和泉よ。あいつが沢口マリについて行ったのは偶然でしょ。偶然の要素から排除して考えていくのよ。それからもう一つの偶然は、マル害が死亡した場所ね。天王寺駅での死亡は偶然だったはず。毒殺なんだもの、狙った場所で殺せるわけじゃない。だからまずはこの二つを偶然の要素として、ホシのストーリーから排除する。そうしたら、ホシは沢口マリを使って竹井遼子から何かを盗ませ、彼女の口を封じたと考えるのは自然な流れでしょ」 《そうだな。だから夏帆たんは、最初から沢口マリの行方にこだわっていたわけか》 「そう。で、沢口マリが行方をくらましたのも、ホシにとってはイレギュラーだった。和泉の登場、マリの失踪、これらのイレギュラーに対して、大阪府警の動きが速すぎるのが違和感だったわけ。で、府警の中にホシがいるんじゃないかと思ったの」 《そうか――これらがイレギュラーだって気付けるのは、ホシだけってことか。プロセスを知らないはずの府警本部の中に、このイレギュラーな出来事に対して過剰に反応したのが、加藤と三宅だったってことか》 「そうよ。だって、いくら第一発見者でも、和泉を即逮捕するような刑事はいないわ。それに、和泉がテトロドトキシンを所持していたとでっち上げることができたのも、どう考えても大阪府警の捜査員しかいないでしょ。最初からおかしいと思ったのよ。だから、じっくりあたしたちだけで外から攻めずに、速やかに内側に切り込める七ちゃんを呼んだってわけ」 《平坂さんにはとんだ災難だったね。額のけがは大したことなかったみたいで、よかったけど》 「それはあんたが悪い! 民間人を現場に連れて行くんなら、もっと慎重に保護しなきゃダメでしょ!」 《ごもっとも――》 「七ちゃんにはあたしから謝っといてあげたから」 《ありがとう――で、三宅と加藤に目を付けたのは?》 「そんなの簡単よ。七ちゃんに対する二人の態度。加藤は威圧、三宅が懐柔」 《『優しい刑事と怖い刑事』か》 「でしょ」夏帆が頷く。取調べのテクニックの一つで、一人が怖い刑事を演じて被疑者に恐怖を与え、もう一人が優しく接することで、その反動で信頼を勝ち取り、口を割らせるというものだ。七瀬はまんまとはまったわけだ。 《千田は?》 「人を信用しすぎる、あんたの悪いとこが出たわね。千田は一人で『優しい刑事と怖い刑事』をやったのよ。あんたに暴力まで振るって過剰に振る舞い、竹井遼子宅では同情を誘う。単純な手に騙されたわね」  人を信用するのは葛木の長所であり短所だ。いつもなら夏帆と組んでいるから長所になりうるが、今回は別行動だったから短所になったってことだろう。馬鹿みたいな間抜け面で頭をかいている葛木の姿が目に浮かぶ。 《で――》 「次はテトロドトキシンでしょ?」
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