エピローグ

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《よく解ったな。服毒させたのは遼子と恋人関係にあった千田だとしても、どうして凶器がテトロドトキシンだったんだろ?》 「凶器がテトロドトキシンだった理由なんて、そんなの簡単よ。刑事の浅はかな発想ね。凶器の出所がはっきりしてるってことは、どういうこと?」 《足が付きやすい――?》 「そ。普通の刑事だったら、凶器がテトロドトキシンだったらふぐ調理の関係者を疑うでしょ。最初は、ふぐ関係者の何者かに、罪を擦り付けるつもりだったんでしょ。わざわざ入手先が特定できるような凶器を選んだ理由はそれしかない。そして、自分たちの味方である古田は東京にいたっていうアリバイがある。東京駅とか歩き回って、防犯カメラに写ればばっちりでしょ」 《その古田がどうして、沢口マリの息子を監禁しているってことを見抜いたんだ?》 「沢口マリが請負で動いてる可能性が出てきた時点で、彼女は金で動くか、情で動くか、それとも脅迫されて無理やり動かされているか考えたの。で、彼女の職場に電話で聴取したら、すこぶる真面目な勤怠だったみたいだし、しっかり更生しているみたいだった。大阪での逮捕以降の犯行もなかったと思われるしね。だったら、脅迫かなって。で、脅しのネタは一番身近な子どもしかないでしょ」 《でも、その時点では監禁だって証拠はなかったはずだ》 「ないわ。だから片山には児童相談所に虐待通報させたの。親が不在の不当な監禁だってね。児相は事実確認さえできればすぐに動くわ。ましてや警察からの通報だしね。で、即時児相の職員が訪問して、古田はその場をしのぐために子どもの無事を児相職員に確認させざるを得なくなった。すると今度は、古田の身元確認がいる。で、子どもに証言させて、とりあえず不法侵入と不退去の現行犯で逮捕させたってわけ」 《強引だなあ――確証もないのに》 「片山の勘を信じたのよ」 《そうだ、片山さんが大阪に現れたのはびっくりしたよ!》 「芽衣ちゃんの嘘は、沢口マリを東京に避難させる時間稼ぎであり、片山を大阪に向かわせるための時間稼ぎだったからね」 《芽衣ちゃんは、マリをどこで見つけたんだ?》 「そんなの簡単。梅田のホテルよ。和泉と鴨さんが尾行してた」 《あ――》 「マリは最初から姿を消すつもりで、身を隠せる場所を探していたはず。一方で、和泉のことはどうしてだか信頼していた。ま、たぶん、府警の悪徳警官たちとのつながりがないと踏んで、和泉にだけは手掛かりを残そうとしていた節もあるし。なら、あのチェックインも意味があるのかなって」 《なるほど》 「なるほどじゃないわよ。これくらい、自分の頭で整理できるようになりなさいよね!」  夏帆はため息をつく。「じゃあ、彼らが和泉を嵌めることにした理由は?」 《想定外の人物の口を封じようとした――いや、違うか。和泉を嵌めることにしたのは、沢口マリが姿を消したからか。だから、彼女と関係がありそうな和泉を拘束して、彼女の行方を掴もうとしたんじゃないか?》 「でしょうね。何にしても、今回の事件は、イレギュラーなことさえ起きなければ、加藤、三宅、千田が、自分たちにとって都合よく処理できる状況が整っていた。警察官としての立場を利用してね。でも、イレギュラーなことが起きて、そのうえで自分たちの都合のいいように何とかしようと足掻いたから、それが結果的には墓穴を掘ったってことね」 《でも千田は、悪徳警官の情報で、加藤の名前を出してた》 「竹井遼子が掴んでいたのが、加藤に関する証拠だったんでしょ。証言の辻褄は合わせておかないとね。で、一人が逮捕されてもあとはトカゲのしっぽ切り。千田と三宅は、自分たちに関する証拠はないし、警視庁の刑事に介入する権限はないと踏んで、それからこっちの捜査を混乱させる意図もあって、虚実織り交ぜて情報を出してたんでしょ。もちろん、嘘をつく準備をしきれていなかったってところもあると思うけどね」  自分たちのことしか考えなかった連中の、当然の報いだ。そしてそれは、和泉にだって当てはまる。和泉も、自分勝手な因縁で沢口マリを追って、そのせいで、マリからのSOSを受け止めそこなっている。和泉がマリのSOSをちゃんと受け取っていれば、あるいは、初対面のときからもっとちゃんと、彼女と信頼関係を築けていれば、事件は未然に防げたかもしれないのだ。帰ってきたら説教ね。どれくらい効果があるかは解らないけど。  夏帆は電話を切ってポニーテールをほどき、ところてんを口に運ぶ。
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