エピローグ

4/4
前へ
/56ページ
次へ
         *  あいつ、タバコ吸ったな。  二日後。和泉は愛車のBMWを走らせ、綾瀬にいた。無実の容疑で逮捕され、留置所と取調べを経験したが、そのこと自体は特に苦ではなかった。七係の仲間が、必ず無実を証明してくれるだろうと思っていたし、その結果は思っていたよりはるかに早かった。  大変だったのは帰ってからだ。自宅マンションの鍵穴にはガムが詰め込まれていて、管理会社と鍵屋に修理してもらわなければならなくなった。当然、費用は自分持ち。そしてBMWにはタバコの匂い。  どうして僕の家の担当が片山だったんだよ。よりにもよって――芽衣ちゃんか葛木だったら、さすがにこんな無茶苦茶はしなかっただろう。ツイてない。  沢口マリの自宅アパートに近づく。  夏帆から話を聞いたが、マリは本当に、ずっとハコ師からも足を洗って、真っ当に生活していたようだった。和泉が初めて会ったときも――あのとき、どうして僕は、彼女が更生した可能性を考えなかったんだろう。刑事としての壁に突き当たっていた時期だったが、自分が思っていた以上に、周りのことも、相手のことも見えていなかったんだろう。  彼女に謝らなきゃ。そう思ってここまで来たが、もしかしたら、関わること自体が迷惑なのかもしれない。赦してもらえるものでもない。  だって彼女は、少なくとも、和泉は悪徳警官ではないと信じて、SOSを出してくれたのだから。  マリのアパートが見えてきたが、和泉はそのままアクセルを踏み込んだ。  警察と関わる必要のない、彼女の平穏無事な生活が続くことを願って――。                ――了
/56ページ

最初のコメントを投稿しよう!

65人が本棚に入れています
本棚に追加