02-9. 尾行

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 それにしても、と龍輝は大雅をチラリと見遣る。 「新條さん、目が悪かったんですか?」 「俺の視力は、両目とも裸眼で2.0や」 「マジですか! そんな人、いるんですね」 「まぁな。視力検査では一番下のちーっこい字までバッチリ見えるで」 「はぁ。じゃあ、どうして眼鏡なんか?」  そう、大雅は今、黒縁の眼鏡をかけているのだ。いつの間にそんなものをかけたのか。  少々古くさいデザインだが、大雅がかけているだけでおしゃれに見えてしまうのがなんとなく悔しい。  コンタクトを落としてしまったか何かで眼鏡をかけたのかと思ったのだが、裸眼で2.0もあるならコンタクトも眼鏡も必要ない。 「後でわかる。お、あれは……」  龍輝も目を見張った。のんびりとした歩調で歩いていた男が、いきなりその速度を上げたのだ。慌てて二人も男の後を追う。  気付かれたかと思ったが、そうではなかった。ちょうどあちこちに通りが分かれている地点、大勢の人間が行き交うその場所で、男はほんの少しの間だったが、ある人物と言葉を交わしていたのだ。  二人はすぐに何事もなかったかのように別れた。龍輝は男を追おうとしたが、大雅に止められる。 「いいんですか?」 「あぁ、とりあえずな。あいつの居場所は萌香が突き止める。それより……靄付きの男と杏は繋がっとったんやな」  もしかしたらそうではないかと思っていたことが現実になった。あの男は、杏がいたからあの店が見える場所に立っていたのだ。 「あいつ、店の出入口をずっと気にしていました」 「なるほどな。……杏とあの男が繋がっとるってことは、猫背男も繋がっとるってことか」 「あ! あの人はいったい何者だったんですか?」  彼の後から大雅が出てきたことを考えると、杏が店の中で会っていたのは、あの猫背男だろう。 「杏はあいつに仕事の依頼をした。もちろん、健一の新しい家を探せって依頼や。でも、父親が馴染みにしとった探偵じゃないやろな。たぶん、あの猫背男は靄付き男に雇われとるだけや」 「わざわざ第三者に代わりを頼みますか? 様子を窺うくらいなら、直接会えばいいのに」 「一回くらいは直接会うとるやろうけど、それ以降は、あんな風に第三者が杏の依頼を受ける形にしとると思うで」 「……それは、同じ人間に何度も依頼していると思わせないために?」 「かもな。それくらい用心しとるってことやろ」  それなら、直接会ったりせずにメールや電話で済ませればいい。金の受け渡しだって、まさか現金手渡しではないだろうし。  そんなことを思っていると、二人のスマートフォンにメッセージが入る。松井からだ。 「え……」 「チッ……あのストーカー男っ!」  大雅の顔が大きく歪む。その表情には悔しさが滲み出ていた。  龍輝はスマートフォンの画面を見つめたまま、呆然とする。松井からのメッセージを信じたくない、そんな思いでいっぱいだった。
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