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01-4. 彼女の正体
「これはっ……」
龍輝は画像に釘付けになる。
その写真は確かに彼女なのだが、印象がまるで違っていた。まず、見た目の年齢が違う。尾行していた彼女の推定年齢は二十代後半、しかしタブレットの写真では、三十代後半、いやもう少しいっているかと思われた。
それに、写真の彼女は少々地味ではあるが、清楚な雰囲気を醸し出している。しかしさっきまで追っていた彼女は派手な顔立ちで、スタイルもモデル並み。女は化粧で変わるというが、それを優に超えていた。
「どうしてこんなに印象が違うんだ?」
龍輝の呟きを聞いて、大雅と萌香が顔を見合わせ、驚いたように龍輝を見る。
何かおかしなことでも言ってしまっただろうかと龍輝が身を縮こませると、大雅が龍輝の隣にやって来て、ガシッと肩を抱いた。
「痛っ!」
「龍輝、お前には、この写真の女がさっきの女と一緒やってわかるんやな?」
「……はい」
大雅がバシバシと肩を叩いてくる。何がそんなに嬉しいのかわからない龍輝は、ただ首を傾げるしかない。すると、萌香がデスクの上に数枚の写真を並べ始めた。そこに写っているのも、例の彼女だ。ただ、どれも印象は違っていた。
「これ、どういうことなんですか?」
龍輝が尋ねると、萌香が写真を指差しながら説明する。
「これは七年前、これが五年前、そしてこっちが三年前の畑中沙友里なんですよ。で、大雅さんが持ってるタブレットの写真が、半年前の彼女です」
「畑中沙友里? それ、彼女の名前ですか?」
龍輝が大雅の方を見ると、大雅はタブレットを操作し、彼女のプロフィールを表示させる。
「そう。彼女の名前は、畑中沙友里。年齢は三十八歳。写真の印象がそれぞれ違うんは、整形しとるからや。同一人物やとようわかったな」
大雅が口角を上げて笑う。
なるほど、整形しているから印象が違ったのか、と納得する。現在のモデル並みのスタイルも、整形手術の賜物かもしれない。
大がかりな整形をすれば、普通はわからなくなる。しかし、いくら顔形を変えようとも、目は変わらない。一重になったり二重になったりで確かに印象は変わるのだが、眼球を変えることはできない。カラーコンタクトなどを使われているとわかりづらいのだが、幸い彼女はそんなものはつけていなかった。
龍輝は人の顔を見る時、最初に瞳に目がいく。それから輪郭、パーツの配置、と続く。これは無意識なのだが、人の顔を記憶する際も、どうやら瞳が基準になっているらしい。だから、彼女が整形を繰り返していても同一人物だと見抜くことができたのだろう。
そのことを説明すると、大雅はさらに満足そうに笑い、萌香は感心したように何度も頷いていた。
「なかなかいい視点を持ってますねぇ」
「あぁ。さすが俺!」
「なんで大雅さんが得意になってるんですか?」
「だって、龍輝を連れてきたんは俺やで? 俺の見る目があったってことやんか!」
どうでもいいことを言い合っている二人は放っておいて、龍輝は彼女、畑中沙友里のプロフィールに目を通す。
沙友里は神奈川県出身で、大学から兵庫県に移り住んでいた。就職もそちらだ。就職して三年で結婚退職、だが二年後に離婚。子どもはいない。離婚後は、水商売で生計を立てていた。
有名店の売れっ子ホステスだったようで、かなり羽振りがよかったようだ。そして、彼女は三十五歳で再婚する。そこで、龍輝は僅かに眉を顰めた。
沙友里の再婚相手は、店の常連客だった。それ自体に問題があるわけではないが、相手の年齢を見て驚いたのだ。なんと、七十七歳。
世の中に年の差婚は溢れている。親子ほど年の離れた夫婦だって多くいるだろう。しかし、ホステスと常連客の結婚、年にかなり開きがある、しかも相手は資産家だった。ここまで条件が揃うと、穿った目で見てしまうのはある種仕方がない。
「え、死んでる?」
思わず声に出していた。
沙友里の再婚相手は、風呂場で亡くなっていた。原因はヒートショック。急激な温度差により血圧が大きく変動し、失神や心筋梗塞、脳梗塞などを引き起こしてしまう現象だ。
高齢ということもあるので、それ自体に不審な点はない。夫の死後に、沙友里は多額の保険金を受け取っていた。
夫は資産家ということもあり、保険金が高額になるのもわからなくはない。だが、夫が死んだのが、結婚して一年にも満たないところに意図的な何かを感じてしまう。そして、その先はさらに怪しさを増していた。
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