01-4. 彼女の正体

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 つい感情に任せてタメ口になってしまう。ハッとするが、一旦外に出てしまったものは取り消せない。  バツの悪そうな龍輝を見て、大雅と萌香が噴き出すように笑った。 「ぶはっ!」 「あはははは! 龍輝さん、素が出ちゃいましたねー」  怒られると思ったのだが、まさか笑われるとは。 「でもわかる! 大雅さんっていっつも勿体ぶるんですよねー。ほんとイラッとしちゃう」 「イラッとするとか言うな! こういうことは、楽しみに取っといた方がおもろいやん!」 「んー、その気持ちもわからなくはないですけど」 「やろ!」  二人は楽しそうに笑っているが、龍輝は憮然としたままだ。  さっきも言ったとおり、龍輝はこの事件を追うことができない。これで事件とも二人ともさよなら、ということになる。それなら今、能力のことを教えてくれてもいいではないか。  そんな気持ちで大雅の方を見ていると、龍輝の視線を感じたのか、大雅がこちらを見て苦笑した。 「不満そうやな」 「そうですね」 「お、遠慮なく言うようになったやん」  どうしてそんなに嬉しそうなのか。  萌香とのやり取りを聞いていても感じるが、階級云々で態度を変えられることが嫌なのかもしれない。  だが、警察は完全なる縦社会だ。階級が全て。例え年齢が同じであったとしても、階級が上なら敬語で話すのは至極当然のこと。 「沖田龍輝、二十五歳。大学卒業後、警察官を志す。警察学校を出て、最初に配属されたのが今の四谷警察署新宿交番。実直な仕事ぶりで、同僚や上からの評判も上々」  龍輝は目を見張る。  別れてから再び合流するまでに、龍輝のデータを調べたのか。だが、仕事ぶりや同僚、上からの評価など、こんな短時間にどうやって調べたのだろうか。 「言っとくけど、仕事ぶりや周囲の評判は、萌香調べや。こいつの人脈、半端ないからな。そもそも萌香はこっちの人間やし」 「そうだったんですか!」 「そうですよー。私、関西弁じゃないでしょう?」 「……確かに」  それにしたって、仕事のスピードが尋常ではない。萌香もやはり得体が知れない。可愛らしい容姿に間延びした口調は、油断ならない彼女の能力を上手い具合に隠しているように思える。 「お前はこの件に関われんって言うけど、もう関わっとるやん」 「え!?」  もう関わっている?  聞き間違いかと思い、龍輝は眉間に皺を寄せ頭を振り、改めて聞き直す。 「関わっているとは、どういうことでしょうか」 「そのまんま。お前はもう、この事件の捜査に参加しとる」 「えぇっ!?」  いやいや、待て待て。いくら大雅がそう言っても、大雅の一存だけで、龍輝が管轄や仕事の領域を越えて捜査に参加することなどできるわけがない。  そんな気持ちが駄々洩れているのだろう、大雅はニヤニヤしながらこちらを眺めている。「意地悪ですねぇ」なんて言いながら、萌香は呆れている。だが、萌香も否定しない。 「それ、本当ですか?」 「信じられんか?」 「そりゃそうですよ。そんな簡単に……」 「じゃ、上に確認すれば?」  大雅は自信満々だ。その口車に乗って上司に連絡して、果たして大丈夫なのだろうか。話が通っていなければ、ただの戯言だ。  だが、本当にこの事件の捜査に加われるのなら──。 「電話します」 「おぉ、しろしろ! 早くしろ!」  龍輝は立ち上がり、部屋の隅に移動する。ポケットからスマートフォンを取り出し、上司に連絡を入れる。呼び出し音が鳴っている間、心臓はドキドキと大きく脈打っていた。  もしかしたら、なに馬鹿なことを言っているんだと怒られるかもしれない。寝言は寝て言えと笑われるかもしれない。  それでも、大雅が上に話を通してくれているという、一つの奇跡に賭けたかった。
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