01-4. 彼女の正体

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『おぉ、沖田か。どうした?』 「すみません、お疲れ様です!」 『お前、今はプライベートじゃないのか?』 「はい、あの……実はですね、今、警視庁にいるんですが……」  どう話を切り出せばいいのか探っていると、いきなり向こうが大きな声で叫び、謝ってきた。 『あー、悪い悪い! そうだ、お前が帰った後で、大阪府警の新條警部から連絡があったんだった!』 「あの、それで……」 『お前、明日からそっちの捜査に協力することになったから』 「は?」  正直、本気で驚いた。こんなに簡単に通ってしまうものなのか。 『スパイト犯罪対策室だろ? あの部署は特殊でな。それに、新條警部はかなりの数のスパイト犯罪を解決に導いている。彼が協力を要請するなんて、滅多にないすごいことなんだぞ! 署長まで話はもう通ってるし、問題ない。頑張ってこいよ!』  大雅は、どうやら警察内でかなりの実力者らしい。それほど年も変わらないように見えるのに、本来なら龍輝などと関わることもない、雲の上の人物だったようだ。「失礼します」と電話を切った後、しばし放心してしまった。 「どうやった?」  わかっているくせに、わざわざ聞いてくる。こういうところが子どもっぽいと思うが、話を通してくれていたことには感謝しかない。  おそらく、大雅は龍輝の能力を知った時からこの事件の捜査に加えようと考えていた。そして、思い立ったらすぐ行動、すぐさま話を通してしまうのだから驚きだ。  まだニヤニヤしている大雅に向かって、龍輝は深く頭を下げた。 「ありがとうございます」 「明日から、お前はこっちに参加。とりあえず、明日は朝一で畑中沙友里の家へ行くから、今日はもう帰ってゆっくり休め」 「はい」  捜査に加わりたいと思っていたが、実際に加われるとなると、緊張と高揚で気持ちが落ち着かない。足手まといにならないように頑張らねばと、自分に発破をかける。  それと同時に、大雅がどんな捜査をするのか興味があった。上司があそこまで言うのだ、相当なやり手なのだろう。側でじっくり観察し、彼の捜査方法を吸収してやる、そう心に決めた。 「明日の時間と集合場所は、追って連絡する」 「はいっ!」  気合の入った龍輝の返事に、大雅は満足そうな顔をし、萌香は笑いながらヒラヒラと手を振る。  龍輝は再び頭を下げ、積み上がったダンボールを避けながらその部屋を後にした。しかし、家に帰る電車に乗った途端、あ、と思い出す。 「新條さんの能力、結局聞けなかったし!」  だがすぐに、いいかと思い直す。明日から一緒に捜査するのだから、聞ける機会はいくらでもあるだろうし、ひょっとすると目にすることもできるかもしれない。  龍輝は期待に胸を膨らませながら、拳を強く握りしめるのだった。
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