01-2. 龍輝の能力

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01-2. 龍輝の能力

「信じていただけないかもしれないんですが」  そう前置いて、龍輝はどうして自分が彼女を追っていたのかを説明した。  パトロール中、彼女を見かけた。派手な顔立ち、服装もバッチリと決め、街を颯爽と歩いていた。  そんな人間は他にもたくさんいる。偶に芸能人を見かけたりもするくらいだ。珍しくも何ともなかった。だが、職務中にもかかわらず彼女を追ったのは──。 「彼女の周りが、黒い靄みたいなもので覆われていたんです」 「靄?」 「最初に黒い靄を見たのは、まだ小学校にあがる前でした。でもそのうち見えなくなったので、すっかり忘れていたんです。ですが、この仕事に就いてからまた見えるようになって……」 「それって、霊みたいな?」 「いえ、そうではなくて。オレに霊感はないです。あ、私はっ」 「ええって。他のお偉いさんの前じゃマズイやろうけど、俺の前では気にせんでええ」 「はい」  この話を他人にするのは、実は初めてだった。誰にも話したことがなかったのは、どうせ信じてもらえないだろうということもあったし、自分でも半信半疑だったからだ。  だが、ようやく確信が持てるようになってきた。それは、データが蓄積されてきたからだ。 「霊とかではなくて、黒い靄は犯罪の気配というか……そんな感じのものです」 「犯罪の気配?」  時折、黒い靄で覆われている人間に出くわすことがあった。最初は気のせいかと思ったが、そうではなかった。何度見直しても、他の人間にはない靄が見えたのだ。そしてその人間は、必ず世間を賑わせることになった。 「大きな罪を犯す、もしくは、犯していたんです」 「!」  大雅の眉がピクリと動く。彼の視線が鋭くなり、龍輝は無意識に息を詰めた。 「それで……犯罪の気配、か」 「はい」 「確率は?」 「今のところ……100%です」  我ながら信じがたいことだが、龍輝が黒い靄を目撃した人間は、必ず犯罪に関わっていた。  だから、彼女を放置しておくことができなかった。これから罪を犯すのか、すでに犯した後なのか、それはわからない。  彼女が何者なのかを知らねばならない。職質をかけるわけにはいかないが、彼女をつけて、せめて住んでいる場所を把握できればと考えていた。  龍輝は大雅の様子を窺う。彼は先ほどからじっと考え込み、一言も発さない。  やはり、信じてはもらえないだろうか。  黒い靄というのも、他の人間に見えるわけではなく、龍輝にしか見えないのだ。説得力がなさすぎる。しかも、犯罪の確率が100%など──。 「……おもろい」 「は?」  大雅は鋭い視線のまま怪しい笑みを浮かべ、龍輝を真っ直ぐに見据えた。  背筋がゾクリと粟立つ。その笑みは、正義の味方というより悪魔のそれだ。 「あの……信じていただけたんでしょうか」  おずおずと尋ねると、「当たり前やん」と返ってくる。即座に返ってきたその答えに、龍輝は目を丸くした。  信じてもらいたかったに違いないが、これほど簡単に信じてもらえるとは思わなかったのだ。 「龍輝、お前がこれまでに黒い靄を見た人間、全員覚えてるか?」 「全員は難しいかもしれませんが……大体は」 「よっしゃ。その名前、今から書き出せ」  そう言って、大雅は自分の手帳とペンを渡してくる。  ここに書けということだろうか。  龍輝は大雅を見つめ、本気と知るやいなや、溜息を零した。  普通は、自分の手帳を易々と他人に触らせたりはしない。そこには個々の情報が詰まっているからだ。月日を重ね、苦労しながら得てきた大切な情報だ。にもかかわらず、この男はそんなことなどまるで気にしないように、ご丁寧にページまで大きく開いてお膳立てをする。つくづくよくわからない男だ、と思った。 「ほら、早く」 「はい……」  大雅が急かすので、コーヒーを一旦地面に置き、龍輝はペンを取ると思いつくままに名前を書き連ねる。  意外と手帳が綺麗なのを見て、情報は手帳に記すのではなく、スマートフォンやタブレットで管理しているのだろうかと思い直した。最近はそういう人間も多い。龍輝は文字を打つよりも手書きの方が早いので、手帳派なのだが。  龍輝が手帳に名前を書いている最中、大雅は機嫌よさげに身体を揺らしていた。
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