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『杉野が前川さんを襲う 前川さん負傷 すぐに病院に搬送 前川さんを庇った警官も負傷 杉野は現行犯逮捕』
ただ事実を羅列しただけの内容。理解した瞬間に吐き気がした。
杉野はそのうち何か行動を起こすのではないか。龍輝もそれを懸念していた。
何度居場所を変えても、杉野に突き止められていた前川由衣子。
今の住まいはまだ引っ越して間もないこともあったし、杉野も時折姿を見せるだけだったので、彼女自身もすぐにどうこうなるとは思っていなかったという話だった。だが、松井も心配して密に連絡は取っていたという。自分の身体が空いている時は彼女の家の周りを張ることもあったし、最寄りの交番の警官にも話を通し、パトロールも強化していた。それなのに──。
「くそっ……」
間に合わなかった。それが悔しすぎる。
龍輝は今や確信していた。杉野が由衣子の居場所を突き止めるよう依頼していたのは、あの靄付きの男だ。
スマートフォンを握りしめる。握りつぶすかというほどに強く。
「不幸中の幸いは、前川さんが襲われた時に、すぐに警官が駆けつけたことや。警官が庇ったんやったら、彼女の怪我はきっと命に関わるほどやない」
「それでも……」
「あぁ、もちろんや。もっと早く俺らが何とかできとったら、前川さんは怪我なんてせんでよかった。でも、そんなことは今言うてもしょうがない」
「……はい」
「転んでもただでは起きん。これを機に、一気に片付ける」
大雅の瞳が、まるで獲物を捕らえる獣のようにギラリと光る。そして、心臓を射抜くかのような鋭い視線を、そのまま龍輝に向けた。
「行くぞ、龍輝。こっから事件解決までは、寝る間なんてないからな」
「はい!」
靄付きの人間は、欲望のままに行動する。あの男の欲望は金なのか。いや、おそらくそうではない。
自分は安全圏にいて、人が犯罪を犯す様を、そして犯罪者に傷つけられ、苦しむ人を眺めて楽しんでいる。それこそが目的と思われた。金だけが目的なら、もっと楽に稼げる方法がいくらでもある。
彼の心の闇に慄きつつも、それ以上に腸が煮えくり返る。
絶対に許さない。必ずやあの男を逮捕し、罪を償わせる。
だがその前に、スパイトを破壊する必要がある。あの男の痣はどこにあるのだろうか。
ほとんど駆けるかのようなスピードで歩き出す大雅の隣で、龍輝は靄付きの男について考えを巡らせるのだった。
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