01-3. スパイト犯罪対策室

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「あの」 「なんや?」 「新條さんの能力って……」 「お、彼女、出てきたで」  大雅の声に、龍輝は施設の方を見る。  彼女はちょうど建物から出てくるところだった。彼女の周りには、相変わらず靄が立ち込めている。  入っていった時とは違い、髪がすっきりとしていた。予想通り、ヘアサロンへ行っていたようだ。だが、思ったほど時間はかからなかった。 「行くで」 「はいっ」  大雅に続いて龍輝も後を追いかける。ここで彼女を見失っては元も子もない。  二人は急いで飲み終えたカップをゴミ箱に捨て、彼女の尾行を始めた。  * 「はぁ……やっぱ、慣れんとこでの尾行は疲れるわー」  二人は彼女の住まいを特定することに成功し、今日のところはひとまずそれで終了となった。  普通ならここで解散だ。これから彼女にどのような捜査が入るのかわからないが、龍輝に知らされることはないだろう。だが、龍輝はこのまま引き下がりたくなかった。それに、まだ大雅の能力の話も聞けていない。  龍輝が大雅に直談判しようと口を開きかけた時、大雅はそれを予測していたかのように言ってきた。 「龍輝、その気があるなら、私服に着替えてから警視庁へ来い。近くまで来たら俺に電話しろ。迎えに行く」  その場で連絡先を交換し、一旦別れる。  龍輝は急いで職場に戻り、上司に報告を済ませ、仕事をあがった。あれこれしつこく聞かれやしないかと心配したが、意外とすぐに解放されホッとする。  そこからすぐに警視庁へ向かい、駅に着いた時点で連絡を入れた。建物の前にはすでに大雅が待っており、そのまま中へ入る。  どこへ連れて行かれるのかと思えば、小さな会議室だった。しかし中に入ってみると、ダンボールが所狭しと積み上げられている。会議室と書かれてはいたが、どうやら今は倉庫として使われているようだ。 「俺らが出張の時には、大抵この部屋を使わしてもらってる」 「俺ら……?」  大雅は、ダンボールが積み上げられているその奥へと歩みを進める。するとそこには、一応仕事場と呼ばれるスペースがあった。デスクもあり、パソコンも置かれている。  デスクに座ってパソコンのモニターにかじりついていた人物が、ふとこちらに視線を向けた。 「あ、おかえりなさーい」 「ただいまー。こいつがさっき話した沖田龍輝や。よろしくー」 「はーい、よろしくお願いしまーす」  なんとも気の抜けるような緩い会話だ。だが、自己紹介はきちんとしておかねばなるまいと、龍輝は姿勢を正し、敬礼する。 「はじめまして。私は四谷警察署……」 「新宿交番の沖田さんですよねー。大雅さんから聞いてますから大丈夫でーす。あ、私も龍輝さんって呼んでいいですか?」 「え、あ、はい」  その人物は立ち上がり、龍輝に向かってペコリと軽く頭を下げた。 「大阪府警スパイト犯罪対策室の石川(いしかわ)萌香(もか)です。ここ狭いんですけど、適当なところに座っててくださいね。私、お茶もらってきまーす」 「え、あの、お構いなく……」 「おー、頼むなぁ!」 「はーい」  萌香はダンボールの間をすり抜け、部屋を出て行く。  龍輝は呆気に取られていた。  大雅とここへ来ているということは、おそらく彼女も刑事だろう。にしては、のんびりしているというか、マイペースというか。警察はただでさえ男社会だというのに、あのような話し方ではよけい舐められるのではないだろうか。他人事だというのに、ついそんな心配をしてしまう。 「龍輝の考えとることは大体わかるけどな。あいつ、萌香は刑事じゃなくて、俺らのサポートや」 「サポート?」 「さっきあいつが言うてたやろ、スパイト犯罪対策室って。そこでの書類作成やら申請やら調べものやら、そういうのを一手に引き受けとる事務職員や。ただ、あいつはちょっと特殊で、こうやって出張についてきたりもする」 「あ!」  うっかり聞き流してしまうところだった。  スパイト犯罪対策室。そのような組織があるなど、初めて知った。しかも、その組織があるのは警視庁ではなく、大阪府警だという。いや、もしかしたら警視庁にもあるのだろうか。  そんな風にいろいろ考えていると、またもや先回りして大雅が言った。 「スパイト犯罪対策室は、大阪府警だけの組織や」 「大阪府警だけ? それはどうしてですか?」  大雅がニヤリと笑う。その勿体ぶったような笑みに少々苛つくが、龍輝はなんとか我慢する。  大雅はたっぷり間を置いた後、得意げな顔で自分を指差した。 「俺がおるからや」 「……はぁ?」  龍輝は思わず眉を顰め、素っ頓狂な声をあげてしまった。
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