200某年、8月

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就活を辞めてしまうなんてこと。 ひとりでは決断できなかった気がする。 だけど2人で新しい生活を始めようってことのほうが、大きかった。 もっと大事な決意だったから、俺は考えに考えた。 そして務と進む道を、務と生きることを、本気で選んだ。 お互い地方出身の上京の独り暮らし。 俺たちは双方の親に、いかにもな理由を並べ立てて説得して フリーターになることを承諾してもらった。 ゲイやバイなのを家族には言わない身なのが、むしろ好都合で。 男同士の同居は容易く許してもらえた。 本当は男女で決意するのと同じくらいの愛情だったけどね。 新居を探そうかとも思ったが、今後の節約も考えて、やめて 務の住まいが二部屋あって広いこともあり、俺がそっちへと 引っ越した。 その後、無事に大学は卒業して。 2人暮らしも、バイトも、順調にいっていた。 そして、愛し合うことも。 細くみえる務の意外と広い背中に。 包み込まれるように抱かれるとき。 俺は、心も身体も満たされた......。 住まいが新宿に近かったこともあり、デートするのは新宿だった。 映画好きというわけではなく、流行りモノに乗るのが好きだった。 ネットで話題になると、新宿のいくつもの映画館へと観に行った。 2人して好きなアマチュアのバンドがあって。 新宿にあるライヴハウスにもよく行った。 そのバンドが解散したときは本気でショックだったな。 あっ、年明けにさ、 新宿の神社で2人で初詣して、大吉だったのにな、俺。 神様って、まったく信用できねぇなあ。 あれ、これって......。 この、新宿のことばかりで。 しかも全部、ずっと前のことじゃないか......? あぁ、そうだこのところは。 2人で出かけることは、ほとんどなかったんだ。
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