愚連隊‐4‐

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愚連隊‐4‐

 それはこの場にそぐわない、なんとものんきな笑い声だった。 「ぼこぼこ?ふふっ、ふふふふっ」  その声を耳にしたヴァイノの目が、不機嫌に三角になる。 (なんだ、コイツら。バカにしてんのかよっ、クソ面白くねぇっ!) 「離せよっ、トカゲ目!きっもちワリぃ色だな。トカゲとおんなじ目の色しやがって!お前も外道(げどう)だろっ!」  精一杯ガンを飛ばしてみせたが、旅装束(たびしょうぞく)には何の効果もないようだ。 「へぇ、トカゲ?トーラのトカゲは、目が緑なのか?」  締め上げる手の力は緩めないまま、旅装束(たびしょうぞく)はレヴィアを振り返った。 「うん?そう、だね。緑のも、いるね」 「へえ!アマルドにはいないな。見てみたいなぁ」 「……はぁ?」  さっきまでは、凶悪でしかなかったのに。  旅装束(たびしょうぞく)の無邪気な態度に、自分の置かれた立場も忘れたヴァイノは、まじまじと鮮やかな緑色の瞳を見つめた。 「オマエ、アッタマおかしんじゃねぇの?トカゲみてぇだって言われたんだぞ?」 「トカゲは好きだな。可愛いから」 「はぁ?!」 「(えさ)にもいいし」  いきなり手を放されたヴァイノの頭が、勢いよく地面に落ちて鈍い音を立てた。 「ぐ、いってぇ~」  うめくヴァイノを振り返りもせず、旅装束(たびしょうぞく)はさっさと『(あるじ)』の元へと戻っていく。 「レヴィ、トカゲはまだ出ないかな」  (あるじ)と呼ぶにしては親しげに、旅装束(たびしょうぞく)はレヴィアを見上げた。 「そう、だね。まだ寒いから。今度、捕まえる?」 「そうだな!捕まえたら見せてくれるか?」 「いいけど、それ、(えさ)にしちゃうんでしょう?」  少女のように可憐(かれん)な顔が、頭巾(ずきん)の中をのぞき込んだ。 「可愛い命を、大切な存在のために、ありがたく(かて)とする。生きるとは、そういうことだ」 「そっか。僕たちと、同じだね」  うなずくレヴィアの額に垂れている血を、旅装束(たびしょうぞく)が優しい手つきで(ぬぐ)う。 「そう、同じだ。……ああ、それとな」  振り返った旅装束(たびしょうぞく)の険悪さに、フロラに寄り添われたヴァイノは、しゃがみこんだまま後ずさった。 「言い忘れていたが、確かに私は異国の人間だが、(あるじ)はトーラ人だぞ」 「……は?」 「目に映るものだけに囚われるな。見えていないものにこそ(まこと)がある。とある国の格言だそうだ」  襟巻(えりまき)の奥で、にやりと笑ったらしい声で旅装束(たびしょうぞく)が続ける。 「お前にとっての真実を見極めろ。それでも私たちを敵だと思うのなら、いつでも相手になってやる」  腰に帯びた短剣にかかった手を見て、立ち上がれずにいるヴァイノは、それでも後ろ手でフロラをかばった。 「(あるじ)は、本当に雪割草を喜んでいたんだぞ。……ほら!」  焼き菓子の入った袋をレヴィアの手から奪うと、旅装束(たびしょうぞく)はヴァイノに向かって放り投げる。 「食べ物を粗末にするなよ。行こう、レヴィ。ちょうど朝餌(あさえ)の時間だ。一緒にあげよう」 「え、こんなもん、いらねぇ」  立ち上がったヴァイノは手の中の袋を掲げるが、ふたりは振り返りもせずに、庭奥へと消えていった。 「何だよ、アイツら。この屋敷の?あるじ?」  自分が着ている服よりも、ずっと上等な布で作られた袋を見て、ヴァイノは舌打ちをする。 「フロラ、もう、ここには来んじゃねぇぞ」 「え……、でも……」 「オレの言うこと聞いとけって」  貴族の別邸だとか豪商の別荘だとか、そんなウワサのある建物を、ヴァイノは見上げた。 「アイツがこの屋敷の人間なら、オレらとは住む世界が違ぇよ。それに、親切に見せかけて、子供を売っぱらう奴だっているじゃんか。ほら、行こうぜ!」  ヴァイノは歩き出すが、布の(かたまり)、フロラは動かない。 「ほーら」  うつむいているフロラの指先を、ヴァイノはそっと握って引っ張った。
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