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出会いの日‐１‐
早朝にもかかわらず、食堂は、ほぼ満席であった。
食欲をそそる香りが満ちた店内は、腹ごしらえをしてから仕事へ向かおうという客たちの活気で満ちている。
ジーグが店に話を通してくれていたようで、ヴァイノと仲間たちは、すんなりと奥の一角、一般客とは少し離れた衝立の向こうへと案内された。
「ジーグさん！久しぶり！」
くしゃくしゃの麦わら色の髪に、陽気な飴色の瞳をした少年が、衝立で間仕切りされた内側に飛び込んでくる。
「元気だったか、スヴァン」
その底抜けたにぎやかさに、一番奥の席に座っていたジーグが口元を緩めた。
「おはようございます、ジーグさん。ごめんなさい。また迷惑かけて」
やせて背の高い、金褐色の髪をきっちりと結んだ少女が、淡墨色の瞳を申し訳なさそうに伏せて頭を下げる。
「アスタは相変わらず苦労性だな。お前が気に病むことはない」
ジーグの労わりに、やせた少女は困ったような微笑を返した。
「やめなって言ったのに」
ともに入ってきた、薄茶色の目をした少女がヴァイノを振り返ってにらむと、無造作に切られた明るい褐色の髪が、たてがみのように揺れる。
「え、ひでぇな、オレだけのせいかよ。メイリはいっつもそれだ。……いてっ！」
仲間の中では一番年かさに見える、真鍮色の髪を持つ少年が、フロラの隣の席に座った銀髪頭を勢いよく叩いた。
「みんなで止めただろ。かっぱらったのはお前なのに、全員追いかけられた。それでフロラがケガをしたんだぞ」
青鈍色の瞳が、非難するように細められる。
「私は、大丈夫だよ、トーレ」
フロラが体に巻き付けていた布を取ると、見事に艶やかな金髪が流れ、現れた。
「よしよし、まあいいから座れ」
古びほつれた、寄せ集めの服を着た少年たちが、ジーグにうながされて隣の食卓に座る。
「ほら、好きなものを頼むといい」
品書きを渡された六人は思わず歓声を上げて、慌てて口を閉じると、嬉しそうな視線を交わし合った。
しばらく微笑ましそうに少年たちを見守っていたジーグだが、それぞれの注文が決まった頃合いを見計らって、背筋を伸ばす。
「これを言うのは、最後になるぞ」
いっせいに口をつぐんだ少年たちが、ジーグを振り返った。
「もう絶対に、二度と、盗みを働くな」
金色の瞳は厳しく、だが、真実少年たちを案じているのが伝わってくる。
「今日は私の居所を教える。今後は何かあったら、すぐに頼れ」
「え！」
少年たちの目が丸くなった。
出会ってから今まで、何くれとなく世話をしてくれたジーグだ。
顏を合わせない時間がしばらくあっても、本当に行き詰ってしまったときには必ず姿を見せ、手を差し伸べてくれる、唯一の大人だった。
それでも、どんなに頼んでも「事情がある」と言って、居所を教えてはくれなかったのに。
「……事情ってやつは、もういいのかよ」
ヴァイノの目が不審気に細められる。
「条件しだいだが」
「条件？……どんな？」
野良犬が警戒するような声を出すヴァイノに、滑らかに低い女性の声がかぶせられた。
「久しいな」
間仕切りの中に、切れ長の黒い瞳を持つ女性が入ってくる。
まっすぐな長い黒髪を頭頂部でひとつに結んでいて、大きな弓を背負った姿が勇ましい。
「おや。ずいぶんと子沢山になったものだな、ジグワルド」
弓を外し壁に立てかけながら、すらりと背の高いその女性は、ジーグの前の席に座った。
年齢はジーグと同じくらいであろうか。
「ジグワ……？」
聞き慣れない呼び名に、ヴァイノが胡散臭そうに女性とジーグを見比べた。
「私の本名だ。リズワン、ジーグで構わない」
「それはお嬢が呼ぶ名だろう。私にとっては、お前はジグワルドだ。ボジェイク老師のところで、一緒に修行をしてたときと変わらずな」
リズワン、と呼ばれた女性が片頬で笑う。
「私に負けて、悔し涙を流していたあのころの、」
「泣いていない」
食い気味に、ジーグが重低音で否定した。
「泣いていた」
リズワンが涼しい声で繰り返す。
「土埃が目に入っただけだ」
「私の蹴りが決まったときのな」
深いため息を吐き出し、ジーグはそれ以上逆らうのをやめた。
「お前は私の六つ上だろう。あのころの六つといったら、体格からして差がある」
「泣いたの？ジーグさんが？……ジーグさんがっ？！」
スヴァンの飴色の目が、驚きに丸くなる。
「よー、遅れたかなぁ？あ、リズ姐ってば、ひっさしぶりぃ～」
苦虫を噛みつぶしたような顔をするジーグを横目に、あっけらかんとした態度で挨拶をする青年が姿を現した。
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