出会いの日‐3‐

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出会いの日‐3‐

 込み上げる感情を、無理やり抑え込んでいる。  それがありありと伝わる声で、スライは続けた。 「”離宮に雪崩(なだ)れ込んだ市民たちは口ぐちに責めたて、迫り、手に持っていた松明(たいまつ)を敷地内に放ちました。まるで悪夢を見ているようだった……。侍女(じじょ)たちも火に巻かれて命を落とし、レヴィア様をかばったリーラ様も、(ひど)火傷(やけど)を負われて……。その後、陛下がここトレキバにお(かくま)いになられましたが、ご体調は戻らず、(はかな)くなられたのです。私はリーラ様にお仕えすることを願ったのですが、騒動の元である外道(げどう)は帰れと、追い出されてしまいました。ですが、それには従わずに帰国を装い、この地でその日暮らしを続けておりました”」  悲しみと怒りに支配されそうで、それでも希望を失っていないスライの顔が上がる。 「”やっと。やっとリーラ様とのお約束を果たせます。レヴィア様をお守りできる。ジーグ殿、是非、(わたくし)めをお雇い下さい。年は重ねましたが、まだまだ腕は衰えてはおりません”」 「”もちろん”」  ジーグは深くうなずき返した。 「”でも、一個隊作るつもりなんだろ?”」  ラシオンが改めて食卓に座る面々を見回す。 「”四人じゃいくらなんでも”」 「”レヴィア殿下はもちろんとして、もうひとり。はねっ返りが加わる”」 「”お嬢は元気でやっているか?”」 「”お嬢?"」  懐かし気な笑顔を浮かべたリズワンに、ラシオンの首が(かし)いだ。 「”ジグワルドの(あるじ)だ。ディアムド帝国、騎竜軍の隊長。ア……”」  わずかな身振りで止めたジーグに、リズワンは(またた)きで応えた。 「”『赤の惨劇(さんげき)』か”」 「”お前の耳に死角はないな”」 「”いや、老師からだ。……それにしても、本当によく生き延びた”」  互いにしか聞き取れないほど声を落とすジーグとリズワンの隣で、ラシオンがうなっている。 「”ディアムド帝国の騎竜軍?隊長?!そりゃまた(すご)いのがいるな”」 「”それでも六人、ですね”」  思案顔をするスライに、ジーグは自信に満ちた目を向けた。 「”加え、竜がいる”」 「「「!」」」  のけ()るように、目を()いて、納得して。  それぞれの勇士がジーグを凝視する。 「”ホントに?トーラに?じゃあ、加わってくれってのは、騎竜隊にってこと?”」  体を反らしたままのラシオンに、ジーグが小さく笑ってみせた。 「”竜は二頭。ほかは騎馬で補う。帝国の混合部隊と同じ編制だ”」 「”ははぁん。それなら、俺らは騎馬兵か。……竜、とはな”」  ラシオンは焦茶(こげちゃ)の瞳をわずかに伏せて考え込む。 「”リーラ妃殿下の命を奪った、そして、この国を食い荒らしている連中は、いまだ(まつりごと)の中枢にはびこっている。陛下は寵妃(ちょうひ)の忘れ形見を守るため、援助は惜しまないとのお申し出だ。助力する価値があるかどうか、まず、レヴィア本人に会ってやってくれないか。レヴィアはな……”」  ジーグはふと、あごに指を当てる。 「”うちのはねっ返りの言葉を借りると、『レヴィアは可愛い』”」  ラシオンが体を斜めに保ちながら、疑い深そうな表情を浮かべた。 「”可愛い?そのレヴィア殿下は、おいくつよ"」 「”十五になる。会えばわかる”」 「”まあ、報酬面での文句はないからな。了解した。レヴィア殿下とやらにお会いしよう。で?あの愚連隊(ぐれんたい)はどうする”」  皿を(かか)え、無言でかき込むように食事をしている少年たちを、ラシオンは親指でくいくいと示す。 「”見たところ、救護院(きゅうごいん)を逃げ出した浮浪児たちだろう?”」 「”まあ、そのとおりなんだが……”」  ジーグはちらりと少年たちを見やった。 「”それぞれ、見どころはある子らだ。これから人手もいる。このまま連れていって、働いてもらおうと思っている”」 「”世話焼きなのは変わらないな”」  呆れを混ぜた親し気なリズワンの口調に、ジーグの瞳が細められる。 「”えぇっ、大人しく働くような連中?”」 「”ずいぶん貸しもある。『借りた八分(はちぶ)十分(じゅうぶ)で返す』。我が故郷の(ことわざ)を、まず学んでもらおう“」  半信半疑のラシオンに、やれやれとため息をついてみせながらも、ジーグのまなざしは温かいものだった。
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