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運命の仲間‐1‐
居所を教えるからついてこいとジーグから言われた少年たちは、集まった個性的な面々とともに、街を抜けて歩いていた。
「え、こっちって……」
ジーグの背後で、ヴァイノが青ざめる。
「なに、ジーグさん、オレげど、……異国人とトカゲ目にも、謝らないとダメ?」
ジーグが振り返ると、銀色の眉毛が困惑しきった様子で下がっていた。
大衆食堂を出てから、まずガーティの店に向かったジーグは、ヴァイノとともに店主に頭を下げた。
「指導が行き届かず、申し訳なかった」
「ジーグさんのせいだとは思ってねぇけどよ!なんだ?やけに大人しいじゃねぇか、ヴァイノ。今度こそ改心したか?もうジーグさんに面倒かけるなよ!」
神妙にしているヴァイノを前にして、店主は空を仰いで笑う。
「……うん」
気持ちよく許してくれた店主に小さな返事をしながら、ヴァイノはもう一度、自ら頭を下げたのが、ついさっき。
「いいから黙ってついてこい。それから、トカゲと言うと喜ぶぞ」
背の高いジーグの表情はよく見えないが、声が笑っている。
「好きだからな。小さいころ飼っていたことがある。……結局、餌にしていたが」
「うん。好きだって言ってた」
「そうだろう」
「変な奴だよな」
ジーグの背中がわずかに揺れたが、肯定も否定も返ってはこなかった。
「やっぱここかぁ……」
顔をしかめたヴァイノが頭を抱えるのを横目に、ジーグが門を押し開ける。
「ジーグ?おかえりなさい。その人たちは、……あれ?」
その音を聞きつけ、奥庭から出てきたレヴィアは、見知った姿が混じっているのを見て首を傾けた。
「レヴィア様っ……!」
思わず一団から飛び出し、走り寄ったスライが、震える手でレヴィアの手を握りしめる。
「去年お見かけしたときよりも、ずいぶん大きくなられて!覚えておいでではないですか。リーラ様付きのスライでございます。お小さいころ、お世話をしたのですよ」
「そう、なの?……あ!見物料をくれたとき、支えてくれた、人?」
「はい!……はい……」
スライは流れ落ちそうになった涙を、慌てて指で拭った。
「レヴィア、屋敷の鍵は持っているか?」
近づいてきたジーグに、レヴィアは首から下げていた鍵を取り出してみせる。
「貸してくれ。屋敷を開けよう。それで……」
ジーグの耳打ちをうなずきながら聞いていたレヴィアは、だんだんと困り顔になっていった。
「わかった……、けど、大丈夫かなあ。まだ怒ってるんだ」
血はすでに止まってはいるが、レヴィアの額の傷周辺は内出血を起こして、少し腫れている。
「そこは、お前が上手く取りなしてくれ。頼んだぞ」
「やってみる、けど……」
自信のなさそうな返事をして、歩き去っていくレヴィアの背中を見送ったあと、ジーグは連れてきた皆を屋敷へと案内した。
暖炉に火が入れられた屋敷の食堂に通され少年たちは、見るからに上質な椅子に座らせられて、さっきからキョロキョロと落ち着きがない。
「お待たせ、ジーグ」
少年たちが顔を上げると、レヴィアは旅装束を目深にかぶった、怪しい風体の人物をともなっていた。
襟巻を巻いたその表情はわからないが、何やら危うい雰囲気を感じる。
「そこの銀髪小僧は、何しに来たんだ」
その人物からいきなり不機嫌な声が放たれ、その殺気にヴァイノは怖気立った。
「謝りにか、ケンカを売りにか」
「喧嘩を売っているのはあなたでしょう」
出入り口近くに立つジーグがたしなめるが、怪しい人物は取り合ずに続ける。
「怪我をさせたことは、主が許しているから不問にしてやる。だが、ケツの穴の小さい行為を、詫びずにすませるつもりか」
品のないその恫喝を聞いて、ジーグからため息が漏れた。
殺気に耐え切れなかったヴァイノは目をそらし、不満そうにつぶやく。
「……悪かったよ……」
「悪かった?そんなことはわかっている。それで?」
たたみかけられる厳しい声に目を戻せば、鮮緑の瞳に非難の色はない。
ただ、突き刺すように強いまなざしが、まっすぐに向けられている。
――我が主が何をした?――
……見ず知らずのフロラを治療して、食べ物をくれた。
――偏見を持って投石するのは、信用に値する行為か――
……だって、でも……。
その瞳としばらく向き合ったヴァイノは、銀色のまつ毛を伏せた。
「……ごめん、なさい」
「え?」
「は?」
「うそっ!」
驚いた仲間たちの雁首が、いっせいにヴァイノに向けられる。
誰に何を言われても、負けん気の強いヴァイノは、自分の非をなかなか認めようとしない。
世話になっているジーグから叱られても、かえってむくれることもあるくらいなのに。
そのヴァイノが謝罪を口にするとは。
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