王家の子供たち‐外れ者の姫2‐

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王家の子供たち‐外れ者の姫2‐

 邪険(じゃけん)な態度は王家の評判にも関わるし、何より、カーフの耳にでも入れば、嫌味を言われるだけでは済まないだろう。 (私を知る者に会うなんて……。カーフがトゥクースに戻ってきている、こんなときに)  感情が宿ることのない(なまり)色の細い目を、さらに細めて意見してくるカーフを思い出すと、メテラの(のど)は、柔らかな布で絞められるように苦しくなる。    母の生家だというアッスグレン家の家令でもあり、メテラの教育係として王宮に寄こされているカーフだが、ここ何年かは、別のお役目があるといって首都を離れていた。  それでもメテラの様子は逐一(ちくいち)報告されているようで、不始末があったと思われるたびに、王宮に戻ってくる。  メテラには身に覚えがないことも多かったのだけれど、抗議など聞いてもらえた試しはない。  そして、彼から与えられるきつい仕置きは屈辱的であったが、それよりも心を(えぐ)られたのは、使用人たちがそれを目にしても止めないどころか、薄笑いを浮かべながら、遠巻きにして眺めていることだった。 「お前たちには関わりのない話です」 「陛下の馬車なら、先ほど王宮へお戻りだがな」  視線を戻さないままのメテラに、冷たい声が応える。  遠くからの声を不審に思ったメテラが首を回すと、馬車から少し離れて、木にもたれながら腕組みをしている、東国人の女性と目が合った。 「放っておけばいい。ジグワルドの教育の賜物か?お前たちは、本当に世話焼きだな」 「馬が可哀想じゃないか。……ほら、はまった、ぞ!」  御者と握手を交わしている旅装束(たびしょうぞく)は無視をして、メテラは東国人の女性をにらみつける。 「陛下の馬車とはすれ違わなかったわ。いい加減なことを」 「この国の姫は愚かなことだ」  切れ長の目が、冷ややかにそらされた。 「半刻ほど前から、街道が通れるようになっている。生憎(あいにく)だったな」 「お、愚か?!不敬なことを!首を()ねるわよ!」 「首を()ねる?誰が。お前が?」  目を戻した女性の低い声とその迫力に、メテラはたじろいで口を閉じる。 「応急的な修理だから、長くは走れない。もうお帰り。驚いたろう、怖かったか?」  メテラのことなどまったく眼中にない様子で、旅装束(たびしょうぞく)(いた)わるように馬の鼻面を軽く叩いた。 「日暮れが迫っております。メテラ様、今日は王宮へ戻りましょう」 「……早く出して」  おどおどと提案する御者に、不機嫌な様子でメテラは命令を下す。  そして、御者は旅装束(たびしょうぞく)たちに軽く頭を下げると、馬車を走らせていった。   「豊穣(ほうじょう)の女神の名が泣くな。メテラ、か。……それにしても、母親似なんだろうか?」 「ツンケン姫のことか」  やっと近寄ってきたリズワンが、つぶやくラシオンの目線を追って、去っていく馬車へと視線を投げる。 「そ。うちの殿下は、あれでヴァーリ王を彷彿(ほうふつ)とさせるところもあるだろ?ほら、あのときさ」 「何の話だ?」  襟巻(えりまき)を下げながら、アルテミシアがラシオンを振り返った。 「ヴァイノが、余計な奴らを連れて来ちまったことがあったじゃねぇか。一緒に住み始めたころさ」 「……ああ、あったな」  リズワンが片頬でうっすらと笑う。    ラシオンが口にしたのは、ジーグが愚連隊に仕事を教え始めて、そう日もたたないうちに起こった騒動であった。
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