トレキバ騒動‐発端2‐

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トレキバ騒動‐発端2‐

 ドガッ! 「えっ?!」  ヴァイノの目の前で、斬りかかってきていたはずの男の体が、横にすっ飛んでいく。 「ふくちょっ……!」  男の横腹を蹴り飛ばした旅装束(たびしょくぞく)は止まることなく、地面に転がる男を追っていった。 「早く門の中にっ!」  襟巻(えりまき)の奥から鋭い声が飛ぶ。 「でも、フロラたちが……、あっ!」  見るといつの間にか、レヴィアとラシオンが、男たちと剣を交えていた。 「アスタっ、フロラを連れていけっ!」   (ぞく)の手から奪い返したアスタに、ラシオンが短く怒鳴る。 「こぉんちくしょぉっ!死ねやぁぁぁっ!」  フロラを奪われた巨漢が、レヴィアに剣を振り上げた。 「きゃー!いやーっ!いやぁー!」  耳を押えてしゃがみ込んでしまったフロラを何とか立たせようと、アスタはその両脇に腕を入れ引っ張るが、びくともしない。 「やー!!」 「フロラっ!」  巨漢の刃を両手剣で受けながら、レヴィアも励ますように呼びかけるが、小さく固まってしまったフロラは、がたがたと震えるばかりだ。 「アスタっ、お前だけでも逃げろっ!」  続けざまに斬りつけてくる筋肉質の男の剣をいなしながら、ラシオンがさらに怒鳴る。 「でもっ」 「早く行けっ!」  フロラとラシオンを交互に見たあと、アスタは唇を噛みながらも、門に向かって走り始めた。 「お前も行けっ!」  旅装束(たびしょくぞく)が重ねてヴァイノに命じる。 「だって、」 「くっそーっ!ふざけやがってっ!」  やぶにらみ男が起き上がったかと思うと、剣を手に向かってきた。  旅装束(たびしょうぞく)は素早い身のこなしで刃をかいくぐりながら、すきだらけの下腹(したはら)に膝をめり込ませる。 「ぐはぁっ」 「フロラは助ける!必ずだ!」  腹を手で押さえて膝をついた男の襟首(えりくび)をつかみ上げ、旅装束(たびしょうぞく)がその横っ面に二、三発、重い(こぶし)を叩き込んだ。 「ぐふ、ぐはっ!……かはっ」  男の頭が揺れ、がくりと首が折れる。 「いやああああああ!」  耳をつんざくような、フロラの悲鳴だった。  ヴァイノと旅装束(たびしょくぞく)が同時に顔を向けると、巨漢の剣に肩を切り裂かれたレヴィアの血雫(ちしずく)が飛び散り、フロラの頬を汚している。 「レヴィっ!」  意識のない男を投げ捨て、弾かれたように旅装束(たびしょうぞく)が走りだした。  レヴィアに向かって、さらに巨漢が剣を振り上げる。 「死ねぇっ!」  ガキンっ!  重く、鋭い金属音が辺りに響いた。  走り込んできた旅装束(たびしょうぞく)の短剣が、巨漢の剣を受け止め、払いのける。 「ちっ」  一歩下がった巨漢は、あろうことか、縮こまる少女に向かって剣を振り下ろした。 「っ!」  だが、恐怖に目を見開いたフロラが息を飲み込んだ、次の瞬間。  巨漢の動きがピタリと止まったかと思うと、太い指先から剣が滑り落ちて、その体が木偶(でく)のように崩れていく。 「あ、ああ……」  フロラの目の前でバタリと倒れた巨体の下から、赤い液体が流れ広がっていった。 「もう大丈夫だ。怪我はないか?」  巨体の陰から姿を現した旅装束(たびしょうぞく)が、フロラに手を差し伸べる。 「やだっ!いやだぁああああああ!人殺しっ!人殺しだっ!」  だが、その手はフロラによって、音が出るほど激しく打ち払われてしまった。 「さわんないでっ!やだやだ!」 「フロラっ!」  走り寄ってきたヴァイノが、両手でフロラを包み込むようにして抱きしめる。 「大丈夫だから。な?大丈夫、もう大丈夫。……怖かったな」 「あの、大丈夫?」  レヴィアから声をかけられて、寄り添うヴァイノとフロラを見下ろしていた旅装束(たびしょうぞく)が、我に返った。  そして、無言で(ふところ)から(さらし)を取り出すと、手早くレヴィアの肩の止血を始める。 「あの、ミ……」  声をかけようとして、何を言えばよいのかがわからなかったレヴィアは、そのまま口を閉じるしかなかった。      旅装束(たびしょうぞく)はレヴィアの応急処置を終えると、ぴくりとも動かないやぶにらみの男に素早く縄をかけ、そのまま仲間を振り返ることもなく、無言でその場を立ち去っていった。
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