トレキバ騒動‐妹弟子‐

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トレキバ騒動‐妹弟子‐

「ただの悪童たちかと思ってたけど、お前らだって、歯ぁ食いしばって生きてきたんだもんな」  ラシオンから向けられたに、少年たちが目をぱちくりとさせる。 「フロラの事情は了解した。ついでに、ヴァイノの気持ちもよ。フロラをかばいたかったんだってな」  片目をつぶってふざけるラシオンに、ヴァイノの頬が、ぱっと赤く染まった。 「……んだよ、ほっとけよ」 「あ~ん?おーやぁ、急に声が小さくなっちまったじゃねぇか。なんだってぇ?聞こえねぇぞ」 「うっせぇっ!」  さらに顔を赤くしたヴァイノがラシオンに怒鳴り、食堂の空気が一気に緩んでいく。 「あの、リズワンさん!」  突然、思いつめた顔をしたアスタが、勢いよく立ち上がった。 「私に、もっと稽古(けいこ)をつけていただけませんか?」 「なんの?」  リズワンの片眉が上がる。 「先日、ウサギを一緒に獲ったとき。見どころがあると、おっしゃっていただきました」 「ああ、あれか」  空いた時間で狩りをするとき、手の空いている愚連隊を引き連れているリズワンが、思い出したようにうなうずいた。 「そうだな、初めてにしては上出来だった。……いくらたっても上達しない者を知っているからな。感心したよ」  ジーグが忍び笑いをもらすが、アスタはそれには気づかず、真剣な面持(おもも)ちで続ける。 「さっき、せめて自分の身を守れていたら。あんなに足手まといには、ならなかった」  悔しそうに唇をかんだアスタは、きりっとした目つきでリズワンをまっすぐに見つめた。 「守られるばかりは嫌なんです。できることがあるなら、やりたいんです!」  渾身(こんしん)の決意を淡炭(あわずみ)色の瞳に宿らせた、やせた少女。  少しの衝撃でも飛んでいってしまいそうな少女をしばらく観察して、リズワンが、ふっと頬を緩めた。 「私は厳しいぞ」 「……はい!ありがとうございます!」  ぽきりと折れそうなほど腰を折って頭を下げるアスタに、リズワンが苦笑いを浮かべる。 「そうと決まれば、もう少し食え。体力がなければ、稽古(けいこ)もつけられないからな。今日から私の部屋に来るといい。きつくても()を上げるなよ。構わないか、ジグワルド」 「もちろんだ。だが、お前が弟子を取るとは珍しい」 「珍しくはないだろう。二人目だ」 「へー、リズ姐ってば、そうなんだ。前には誰を?」  意外そうな顔をしているラシオンに、リズワンがニヤリと笑う。 「副長さ」 「ふーん?ああ、ジーグが言ってたもんな。副長の体術は、チェンタ老とリズ姐仕込みだって。さっきもすごかったもんなぁ。動きにちょっとのすきも容赦もねぇのは、さすがリズ姐の弟子ってとこか。あ、じゃあさ、副長って、弓も凄腕(すごうで)?」  ラシオンの言葉に、とうとうジーグとリズワンが同時に吹き出した。 ◇  遠ざかる馬車を見つめるラシオンの肩を軽く小突(こづ)きながら、アルテミシアはあの日、自分を探しにきてくれたレヴィアに思いをはせた。
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