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季節は巡りコロナ感染拡大が小康状態になって幾らか供給が増加し始めた頃、依然として国から社会保障を雀の涙ほどしか受けられない貧困層が既に増大して自殺者も増える中、治安が悪くなっていたので要約、退院した伸将とマイホームに帰った成美は、愕然とする光景を目の当たりにした。それは窓ガラスがほとんど破壊され、金目の物が手当たり次第、盗まれ、屋内だけでなく外面から庭まで荒らされ、変わり果てた豪邸であった。
だから成美は何で私がこうも続けざまに酷い憂き目に遭わなきゃいけないのと伸将が宥めようにも宥められない位、ヒステリックに泣き喚いて悲嘆に暮れた。
それでもマイホームが修復され、セキュリティが強化され、一応、落ち着いて生活出来るようになった頃、一難去ってまた一難、それも途轍もなくとんでもないことが起きた。なんと下北半島の太平洋沖の海底に眠る総延長150キロメートルもあると言われる大陸棚外縁断層が動いて巨大地震が起き、六ケ所村再処理工場のみならず東通原発やむつ使用済み燃料中間貯蔵施設や大間原発も直撃したのだ。原発の耐え得る水準は意外な程、低く1300ガル。況して老朽化している。そこへ東日本大震災に於ける大地震以上のマグニチュード9つまり5000ガル以上の地震が直下で起きたのだから耐えられようはずがなく原子炉に致命傷を負うなどして高濃度の放射性物質を膨大に放出して拡散し、震源のほぼ真上にある六ケ所村を起点として半径300キロメートルに亘って東北地方や北海道一帯を被曝させるに至らしめた。
これはもう原爆を投下された時以上と言っても良い位、ウルトラ級の大ショックを国民に植え付けた。何しろコロナウィルスが蔓延している所へ持って来て新潟県を含め6県1道のほぼ全域が被曝した上に東日本大震災以上の被害が発生して死者は今後、被曝による死者で何倍にも膨れ上がることが予想され、土砂崩れや建物倒壊による圧死者、津波による溺死者、火事による焼死者、そして負傷して血まみれの者も火傷を負う者も赤子をおんぶする者も子供を連れて行く者もほとんど裸の者も半狂乱の者も被曝してしまうかどうかの喫緊の問題を意識せずに避難し、或いは逃げ惑い、他にも泣き叫びながら逸れた家族を探す者や家屋の下敷きになった者を救おうとする者などで愁嘆場は凄惨を極め、辺り一面、瓦礫の山と化したり火の海と化したり洪水の川と化したり、陥没する所もあれば水没する所もあれば浸水する所もあれば水道管が破裂して噴水を上げる所まであって死体も物も火も水も人もごちゃ混ぜになり、兎に角、足の踏み場もない位ぐちゃぐちゃごちゃごちゃして余震でまともに歩けなかったりする中、被曝しないよう何千万の人を対象に避難勧告が発令されると、東北地方の被災者もそうだが、殊に北海道の被災者は何処へどう逃げればいいか分からなくなって大パニックに陥った。まさか本州へ逃げるべく鉄道を使って青函トンネルを通って放射能の発生源がある青森県へ進入する訳にはいかない。となると飛行機で空を渡って少なくとも関東まで南へ逃げる、それがベターだが、各空港も人で溢れ返って大パニックになって漏れ出た大多数の搭乗できない人はフェリーで海へ脱出する方法がまず考えられる。その場合、本州から成るべく離れた航路を辿りながら南下して関東まで行くか、分散しないといけないからもっと南へ逃げなければならない。コロナ禍だから外国という選択肢はないのだ。そもそもそんな選択は有り得ず大抵は止むを得ずマイカーで逃げようとしたが、何しろ道路が地割れしている所も冠水している所も電信柱が倒れている所もあり妨害だらけなので進むこともままならない。仮令、脱出できたとしても住まいはどうするのだ。親戚の家か友達の家に仮住まい出来る人は良いとしてもその他の人々の生活は・・・避難所だけでは間に合わないから仮設住宅を建てるも間に合わず難民で溢れ返り子供や青年は学校にも行けない・・・それに移動中にクラスターが発生した飛行機やフェリーの乗客はどうすれば良い・・・あと徒でさえコロナ感染患者で病床が逼迫しているのに被曝患者を病院は受け入れなければいけない訳だし、日本に於ける主要な農産業水産業畜産業の産物がなくなって食糧危機に陥る訳だし、震災による死体、被曝による死体が腐乱し無人になった豚舎や牛舎の家畜も餓死して腐乱し無人になった食品会社の食料品や留守になった家の食べ物も腐乱して新たな病原体が発生するかもしれない訳だし、職を持っていた避難者の多くが失業して無人になった会社が潰れて兎に角、大損失を被って日本経済が甚だしく疲弊する訳だし・・・その他にも想像を絶する程、無理難題が噴出して難問が山積みになる。正しき政府でも対策が困難、否、正しき政府なら原発なぞ造らない或いはとっくの昔に廃炉にしているからこんな事態は招かない。悪しき政府にどう対策を講じられようというのだ。
取り返しのつかない空前絶後にして前代未聞の史上稀にみる最大級の未曽有の大震災。本土決戦に備え一億総特攻の体勢に入り自滅の道を選んだ日本が原爆を落とされてやっと降伏に踏み切ったように日本国政府は原発廃絶へ向けて要約、重い腰を上げた。
この極めて惨憺たる地獄絵を見るような、焦眉の問題を突き付けられた成美は、漸う父や首相の落ち度に気付いたが、井原家も秋山家も経済的に大打撃を受け、左向きになったのも然る事ながら政府が掌を返したように塩対応になってしまった。
これで政略結婚はおじゃんになり元々打算的に結びついていた伸将と成美との形式的な愛は急速に冷えて行き、徒でさえコロナ禍で苦しくなっていた上、難民による犯罪など治安が悪くなったり食糧危機になったりで生活が困窮し、殺伐とし、荒涼とし、救いようがない事態になってしまった。
おまけにこの時、ネオナチでタカ派でウルトラ右翼の高市が政権を握っていて既に平和憲法を廃止して防衛費を2倍にして自衛隊から国防軍となり、徴兵制を施工し、軍拡が進んで極めてキナ臭い情勢になっていたから二人の家庭のみならず日本全体の家庭に救いようのない雰囲気が常に冪々たる黒雲の如く漂うようになった。
剰え地球温暖化が進んで日中、気温が40度を超える酷暑が襲う真夏に離婚問題が二人に突き付けられた頃、日本はもう何もかもボロボロになっていた所へ持って来て南海トラフの全域に亘ってプレート間の断層破壊が発生して巨大地震が起き、西日本一帯軒並み震度5以上を観測、最大で震度7を観測した。これはもう新たにメルトダウンしなかっただけマシかという程の致命的で壊滅的な打撃を日本に与えた。
糅てて加えてその四十九日後には巨大地震の影響で富士山が大噴火し、関東一円を火山灰による黒のグラデーションで塗り潰した。で、自暴自棄になったものか、高市首相が敵基地を一瞬にして無力化できる攻撃力を遂に獲得したなぞと迂闊にも軽率にも豪語し、それがメディアを通じて中国や北朝鮮の閣僚に知れて・・・やがて山雨来らんと欲して風楼に満つ・・・そんな不穏な空気を劈く巨大な矢のような物体・・・それは紛れもなく北朝鮮の弾道ミサイルだった・・・いつもの実験?ところがどっこい、誤ってか狙ってか日本海を飛び超えて・・・嗚呼、またしても超弩級の悪夢の再来・・・市街地一面が焦土と化し、もう美しかった成美の姿も跡形もなくなくなってしまって・・・そしてまた日は昇る・・・
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