最悪のシナリオ

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 利権に拘る原発推進派の後押しを受け、A電力会社が計画していたB原発新設の工事受注を勝ち取るべくB原発の建設予定地を配下のサブコンに買収させたCゼネコン取締役の秋山将司は、A電力会社新社長に伊原健が就任の際、お祝い金100万円を持ってA電力会社に赴いた。で、「よくぞ買収してくれましたな。而もお祝い金まで」と喜んだ伊原に承諾された秋山は、まずはB原発の新設前に開かれる公開ヒアリングや説明会の際の裏での暗躍を任された。つまり原発の新設や増設は国の主催だが、実際は電力会社が準備するから警備上の理由で会場の入り口を狭くしたりする、その費用も国からは出ない為、A電力会社は地元対策も含めCゼネコンに一任し、そのB原発立地に於ける裏での活躍の見返りとして工事を発注して裏の仕事でかかった経費を建設費に上乗せしてCゼネコンがもうかるようにし、それに応えてCゼネコンはB原発工事正式着工の数ヶ月前に特命発注された施工計画などを手伝い、そのお陰で自分がもうかるように施工計画を立てられた。それでも利益が足りない場合は工事着工後、Cゼネコン側が出した設計変更をA電力会社は概ね認めた。建設費は電気料金に転嫁する仕組みとなっている為、建設費が幾ら嵩んでもお互い儲かるから気前がいいのだ。  おまけに電力会社の例に漏れずA電力会社は献金を自粛しているように見せかけ、その裏で役員や子会社を介すことで国民を欺いて献金を行い、原発推進や電気料金値上げなど会社が儲かるよう自民党に働きかける一方、民主党にも電力労組系団体を通じて巨額の献金をしていて、いずれも原資は電気料金なのだ。  自民党は政治献金の他、組織票で選挙に勝たせてもらっている恩もあり、A電力会社に癒着し神対応する。従って同様に恩がある経団連を始め利益団体の大企業に癒着し神対応するから増税した消費税の税収を社会保障に充てると公然と偽って法人税所得税の減税分に充てるなど金持ち優遇税制を敷いて富裕層を有利にし貧困層を不利にする悪政をするのだ。そしてどんなに貧富の格差を拡大しても、どんなに疑獄事件を起こしても、どんなにスタグフレーションを引き起こしても、どんなに公約を反故にしても、どんなに国家間をキナ臭い関係にしても首相を支持する伊原は、我が一人娘の成美にこの日本で一番偉いのは首相だと彼女が幼少の頃から刷り込み、首相を尊敬させて来た。  だから成美は首相が良き政治をしてくれて首相の言う通り日本は美しい国だと思い込んで育ちながらエリートコースを歩み、高学歴を獲得して生まれついての美しさを伸ばして行ったから世間一般から見れば才色兼備な大人の女性に成長した。  彼女は幼少の頃から習っていたピアノが得意でピアノを弾いている時は至って清楚に見えるが、その一方でハーレーダビッドソンを乗り回す頗る活発な面もあり且つ高慢な女でもある。と言うのは自分がこれだけ才能があり美しいのは天分だけではない、自分が努力したからだと思い込んでいて自信と誇りに満ち、付け上がっていて気位が高く相手が余程の身分でない限り、高飛車な態度に出るのだ。父親や首相がどれだけエゴイストで、どれだけ性根が腐っていて、どれだけこの世を不況にしてしまっているか、その真実を全く知らない癖にだ。そんな風だから首相が右翼の象徴のように靖国神社を参拝しても万世一系の皇統に拘る君側の奸であっても河野談話を否定して従軍慰安婦を慰安婦と省略しても大東亜戦争に於ける日本軍は東南アジア諸国を侵略するのが目的ではなく欧米の植民地支配から解放するのが目的だったと黒歴史を改竄しても尤もなことだと思い、国民懐柔策の一環として行われた人気タレントとの人気番組に於けるトークを見ても好感を持って優しい笑顔をなさる素敵なオジサマだわと首相のことを敬慕するのであった。  それでは首相の思う壺で成美は毎日、知らぬが仏で何不自由なく楽しく華奢に暮らしていた。ところがコロナ禍になってマスクをしなければならなくなり海外旅行に行けなくなると、初めて生活に影が差すようになった。と言っても大したことではなく美貌を充分自慢できないとか旅行に行けない分、退屈するとか、単なるそんな理由であって地球温暖化が叫ばれているのに相変わらずガソリン馬鹿食いのハーレーダビッドソンを乗り回し、二酸化炭素濃度の高い排気ガスを遠慮なく撒き散らしていた。  そんな彼女は当然、衆議院議員選挙で自民党が大勝しても自民党よりえげつない維新の会が議席を大幅に増やしても何にも心配にならない。コロナウィルスの第六波が冬に襲来して来年どうなるか、そんなこともコロナが収束している現在の状況に安心して心配していない。只、秋山が持ち掛けて来た縁談の話が気になっていた。相手は秋山の一人息子、伸将。将来、父親の代を受け継いでCゼネコン取締役になることが約束されたサラブレットのCゼネコン幹部。サブコンに最低賃金割れで雇われた外国人技能実習生を、不当な残業、外出制限など劣悪な条件を突きつける労働環境で扱き使う現場監督の指揮ぶりは見るからに倨傲で非情な鬼のようだが、美人には滅法弱くお見合いの席で彼と初対面した成美は、第一印象で優しそうに思え、話してみても可愛い印象を受ける程、従順に思えた。  交際してみても印象が変わらなかった成美は、三高を満たしている上、「粗利益率が20~30%と公共工事以上に高く1号機をとればその後も受注でき、廃炉までやると50年以上、仕事が切れず、本当においしい仕事である原発工事は文字通りトップセールスだ」と見込んでいる父を信じ政略結婚を成立させようと躍起になっている伸将の偏執狂的な熱意に熱愛を感じたし、父も勧めるから結局、伸将を受け入れ、結婚することにした。  しかし幸福感に浸れたのは束の間のことで東京郊外に豪邸を構えた直後にコロナウィルス第六波が襲来して感染者が増加傾向に転じた国内よりも数多の逆輸入商品の主たる供給源である東南アジア諸国で増加、それも爆発的に急増し、その各国のサプライチェーンが混乱または崩壊して日本は供給ショックに見舞われ、品薄状態に陥り、消費者物価指数が跳ね上がって取引量が激減し、世の中に金が回らなくなって賃金も激減し、強烈なスタグフレーションに襲われた。だから秋山家も甚だしく生活が悪化した。何しろ金があっても生活必需品を十分に買えない。今まで何不自由なく暮らして来た成美にとって夢にも思わなかった惨めったらしい事態になってしまった。  そして追い討ちをかけるように伸将がコロナウィルスに感染して入院することになってしまった。勿論、看病にも行けないし家には家政婦しかいなくて心許ないし寂しいから家政婦に暇を出して同じく東京郊外にある親元に帰ることになった。
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