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「そ、そっか……。良かった……」
むぎの言葉に小さくそう呟いた知夏。その頬は分かりやすいほど緩み、薄赤く染まっている。
そんな彼女の姿に訝しげに眉を寄せる律を見て、むぎは笑いを堪えるのに必死だ。
「可愛いねぇ~。ちなっちゃんは」
辛うじて何とか微苦笑を保ちつつ、ツンツンと肩を小突くと、「う、うるさいっ」と見事なツンデレっぷりで睨み返されてしまった。
そう。何を隠そう、彼女は律のことが好きなのだ。
高校入学前の春休み、互いの合格祝いで山梨へとグランピング体験に行ったときのこと。星空の下繰り広げた女子トークで、そのきっかけを教えてくれたことを思い出す。
――……ということは、だよ?
そこではたと、むぎは小首を傾げ、人差し指をピンと立てる。
知夏の片想い歴は、かれこれ今年で3年目に突入するわけだ。
――ちなっちゃんの目の色が変わったのは、確か中2のときだったもんね。
そう思うと中々感慨深い。
そうして一人、ふむふむと、名推理する探偵の如く頷いていたむぎだったが、横から彼女がジトリとこちらを睨み下ろしていることに気づき、慌てて誤魔化すようにはにかんだのだった。
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