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「それじゃあ、高坂。手始めに、お弁当見せてもらってもいいかな?」
彼の前にいそいそと机をくっ付け終えたむぎは、席に着くと腕捲くりをしながら、にっこりと微笑んだ。
その言葉に、律のみならず知夏までもが、ぎょっと瞳を見開いたのは、言うまでもない。
「て、手始めにって……。俺これから何されるんだよ……」
そう若干上半身を引いた彼だったが、流石はクール男子。軽く上目遣いにこちらの様子を窺いながらも、素直に黒のボックス型の袋をチャックで開封する。
そして、同じく黒一色のお弁当箱をその中から取り出すと、丁寧にそっと蓋を取った。
その一連の動作は決してゆっくりではないのに、何故かむぎの瞳にはスローモーションのように映る。
――この瞬間が、一番ドキドキするんだよね……
片時も視線が逸らせない。無意識にゴクリと喉が鳴った、その直後だった。
急に何を思ったのか、律は「あ」と声を上げて蓋を元に戻した。
「え!?ちょ、ちょっと!何で閉めるの?」
訳が分からず、おろおろと慌てながら、彼とそのお弁当を交互に見るむぎ。
そんなむぎに、ふっと笑みを溢した律の瞳には、気のせいだろうか。――どこか意地の悪い喜色が宿っているように見える。
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