#1 始まりの、春野菜たっぷり肉巻き弁当

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 春の暖かな陽光が、窓を伝ってじんわりと机に降り注ぐ。  その薄く剥げかけた茶の木目が、視界に入っては消える。そしてまた入って――と何度目かのループに陥りかけたところで、肩が無遠慮に激しく揺すられた。 「むぎ!ねぇちょっと!」  微睡(まどろ)みの中、こちらを覗き込むぱっちり二重の少女の顔が、視界一杯に映る。 「ん~……あ、ちなっちゃん。おはよう」  (まぶた)を擦り、(ようや)く覚醒した頭をもたげると、“むぎ”こと秋野都麦(あきのつむぎ)はふんわりと彼女に微笑みかけた。 「おはよう……って、もうお昼だけどね」  その屈託のない笑みに、手嶌知夏(てしまちなつ)はどこか安堵したように、軽く吐息をついた。  先ほど3時間目の授業が終わり、ただ今10分休憩中。次の4時間目を乗り越えると、むぎの大好きな昼休み(ランチタイム)に突入する。  しかし今の彼女の面持ちは、まるで狐に摘ままれたようにぼんやりとしていて、瞳は上の空である。それもそのはず――。 「ねぇ、むぎ……どうしたの?何か寝ながらブツブツ譫言(うわごと)言ってたけど……」  こちらを心配そうに覗き込んだ知夏だったが、次の瞬間ハッと瞳を見開く。 「もしかして、悪夢見てた……?」 「あははっ!違う違う」  のんびりと、しかし間髪入れずにそう否定する。 「私が悪夢に(うな)されてたら、ちなっちゃん多分、『天変地異だっ!』って悲鳴上げてるよ」  
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