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春の暖かな陽光が、窓を伝ってじんわりと机に降り注ぐ。
その薄く剥げかけた茶の木目が、視界に入っては消える。そしてまた入って――と何度目かのループに陥りかけたところで、肩が無遠慮に激しく揺すられた。
「むぎ!ねぇちょっと!」
微睡みの中、こちらを覗き込むぱっちり二重の少女の顔が、視界一杯に映る。
「ん~……あ、ちなっちゃん。おはよう」
瞼を擦り、漸く覚醒した頭をもたげると、“むぎ”こと秋野都麦はふんわりと彼女に微笑みかけた。
「おはよう……って、もうお昼だけどね」
その屈託のない笑みに、手嶌知夏はどこか安堵したように、軽く吐息をついた。
先ほど3時間目の授業が終わり、ただ今10分休憩中。次の4時間目を乗り越えると、むぎの大好きな昼休みに突入する。
しかし今の彼女の面持ちは、まるで狐に摘ままれたようにぼんやりとしていて、瞳は上の空である。それもそのはず――。
「ねぇ、むぎ……どうしたの?何か寝ながらブツブツ譫言言ってたけど……」
こちらを心配そうに覗き込んだ知夏だったが、次の瞬間ハッと瞳を見開く。
「もしかして、悪夢見てた……?」
「あははっ!違う違う」
のんびりと、しかし間髪入れずにそう否定する。
「私が悪夢に魘されてたら、ちなっちゃん多分、『天変地異だっ!』って悲鳴上げてるよ」
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