#1 始まりの、春野菜たっぷり肉巻き弁当

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 その言葉を聞いて知夏(ちなつ)は、 「確かに。いつも頭の中、日和のむぎが悪夢見るなんて、考えられないワ」  と、呆れ気味に瞳を細め、肩を軽く(すく)めた。 「酷いな~」  親友の予想通りの塩反応に、けらけらと笑いながら朗らかに軽口を叩くむぎ。  しかしその脳裏には、先ほど見た夢が鮮明に映し出されていた。勿論、悪夢ではない。 ――むしろ、幸せ過ぎて泣いちゃいそうだった……  そっと静かに瞳を伏せる。  それは小学校の低学年だった頃、母と共に満開の桜を見に行った、最初で最後のピクニックの光景。  まだ幼い、ようやく辿々(たどたど)しくかけ算の九九を呟けるようになった年頃で、当時の記憶は曖昧なのに、その日のことは今でも鮮明に覚えている。  それもそのはず、何故ならその日の翌日に母は亡くなったのだ。  膵臓癌(すいぞうがん)だった。見つかったときにはステージ(4)――末期で、もう手の施しようがなかったそうだ。  それ故だったのだろう。――初めから抗癌剤の治療は受けず、自宅で余生を過ごすことを選んだのは。  あの日、母は父が心配そうに見守る中、覚束(おぼつか)ない仕草で、1からむぎに料理を教えてくれた。  
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