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出来上がった全ての具を、お弁当に詰め終えたときのあの達成感は、何とも言い表せないほどだった。
やったー!出来た!と、手放しに喜びながら台の上で跳び跳ねるむぎに、母は『頑張ったね。美味しそうに出来たね』と、嬉しそうに顔を綻ばせた。その姿を目にした瞬間、むぎの視界一杯に広がったお弁当は、何故だかとても特別なものに映った。
炒めすぎて、へにゃへにゃと不格好に縮れたキャベツ。所々焦げ目がついた卵焼き。ただふりかけを降っただけの白米。――決して上手く出来たとはいえない、それもありふれたお弁当なのに、むぎにはお気に入りの偽ダイアよりも、美しく見えたのだ。
――ほんと、馬鹿みたいに嬉しかったんだよね……
そのときの光景を思い出し、内心小さく苦笑する。
しかし今思えば、その事がきっかけだったのだろう。むぎは忽ち、お弁当の虜になった。
小学校では給食だったので、休日に態々お弁当箱を用意し、朝食の余ったおかずを積めていた。
それ故、中学校の最初の授業日の朝は、『いよいよだ!』と、とてもわくわくしたものだ。その頃にはもう、包丁裁きやフライパンの扱いも大分手慣れていたと思う。
そして高校生となった現在もやはり、むぎは毎朝、お弁当を必ず作っている。
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