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チャイムが4時間目の終了を朗らかに告げた瞬間、むぎの勝負は始まる。
「むぎ、お弁当食べよ~」
いつも通り、教室の端――窓際の2席を確保した知夏が、こちらに向かって片手を振っていた。
「あ、ちょっと待って、ちなっちゃん」
チェック柄のハンカチで手を拭きつつ、むぎは彼女の隣の席へと向かう。
そんなむぎの動向を視線で追い、知夏は「え?」と声を上げた。
「ちょっと、むぎ。そこは――」
何か言いかけた彼女を、しかしむぎは分かっている、というように手で制したかと思うと、
「あ、やっぱり先に食べてて」
「どっち!?」
間髪入れず、鮮やかに突っ込んだ知夏の視線を今度こそ振り切り、その隣に座る人物に声をかける。
「ねぇ、高坂――」
すると、こちらを見上げる切れ長で深みを帯びた瞳。どこか訝しげに細められたそれを受け止め、むぎはいつも通り、さらりとこう告げた。
「私と、“弁友”になってくれない?」
数秒間の沈黙。直後、高坂律の瞳が思い切り大きく見開かれた。
「は!?……いや……ていうか、何それ」
しかしそれも束の間、直ぐに元通り切れ長に細くなる。
その反応に、むぎはきょとんと小首を傾げて言葉を返す。
「何って、普通に友達になろうっていう意味だよ?あ、お弁当繋がりの、ね」
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