#1 始まりの、春野菜たっぷり肉巻き弁当

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 ***  チャイムが4時間目の終了を朗らかに告げた瞬間、むぎの勝負は始まる。 「むぎ、お弁当食べよ~」  いつも通り、教室の端――窓際の2席を確保した知夏(ちなつ)が、こちらに向かって片手を振っていた。 「あ、ちょっと待って、ちなっちゃん」  チェック柄のハンカチで手を拭きつつ、むぎは彼女の隣の席へと向かう。  そんなむぎの動向を視線で追い、知夏は「え?」と声を上げた。 「ちょっと、むぎ。そこは――」  何か言いかけた彼女を、しかしむぎは分かっている、というように手で制したかと思うと、 「あ、やっぱり先に食べてて」 「どっち!?」  間髪入れず、鮮やかに突っ込んだ知夏の視線を今度こそ振り切り、その隣に座る人物に声をかける。 「ねぇ、高坂(こうさか)――」  すると、こちらを見上げる切れ長で深みを帯びた瞳。どこか訝しげに細められたそれを受け止め、むぎはいつも通り、さらりとこう告げた。 「私と、“弁友(べんとも)”になってくれない?」  数秒間の沈黙。直後、高坂(りつ)の瞳が思い切り大きく見開かれた。 「は!?……いや……ていうか、何それ」  しかしそれも束の間、直ぐに元通り切れ長に細くなる。  その反応に、むぎはきょとんと小首を傾げて言葉を返す。 「何って、普通に友達になろうっていう意味だよ?あ、お弁当繋がりの、ね」  
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