豚のしっぽ

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豚のしっぽ

「今、どこにいますか?」  なんて聞く必要ない。なぜなら僕等は神様のいたずらか、たとえ国の端と端とで生まれても必ず巡り合う運命なのだから。  そう、今回だって。アルコールの匂いで満ちている室内で、海生(かい)はテーブルの上に鞄の中身を一つ一つ取り出して並べていく。僕はそんな海生を、ヨハネス・ブラームスの『5つのリート Op.105』に耳を傾けながら見つめる。 「今度はどれにしようか?」 「うーん、そうだなあ……」  一仕事終え、ソファーに座り込んだ海生の股の間に僕も座ると、テーブルに並べられた物を眺めていく。カッターナイフ、ライター、のこぎり、縄、練炭、それから小さな瓶。 「この前は、入水だっけ?」 「うん。アレは苦しかったね」  そうだね、と返すと海生は僕の頭を軽く撫で、それから、ちゅっと口先で唇を啄んできた。これは海生の癖だ。九百九十九年前から変わらない。  もう一度繰り返すと、僕は海生の胸に頭を預けた。
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