文庫本とポトフ

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 私は文庫本を閉じて、部屋をぐるぐる歩いた。後悔の念が渦を巻いて、じっとしていられない。  ――しくじった。まさかこんな終わりかたをするなんて。幾度となくタイムリープを繰り返して恋人の命を救ったのに、彼はほかの女のもとへ走るなんて。なんて救いがない。 「導入はよかったのに……」  文句を言いつつ、鍋に火をかける。ゆうべのポトフがふつふつ沸いてくる。  ざく切りキャベツ、ハーブソーセージ、トマトのいい香り。塩味の湯気がキッチンに広がる。  ひとさじすすると体が温まり、やり場のない心もほぐれていく。  私はスープ皿に、ポトフをすくって注いだ。  大丈夫。ポトフは最高の仕上がりだし。  次に読む本はきっと、今日のより面白い。
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