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「ねぇ。近場の幼馴染だからってあんたの面倒見てるけど、来年から離れるんだよ? 一人で大丈夫なわけ?」
わたしたちは高校三年生で受験生だ。わたしは父が仕事でフランスのパリへ単身赴任中なので、高校卒業とともに母と一緒に渡仏することが決まっている。一応向こうの大学に行く予定だ。
蒼佑とは小学校からの幼馴染で、生活力のない彼の面倒をお節介焼きなわたしが見ていた。
蒼佑は全国でも有名な東京の音楽大学に進学予定なので、実質離れ離れになる。別に付き合ってるわけではないし、離れようが関係ないのだが、今までマネージャーのように蒼佑の面倒を見てきたので、目の届かないところに行くのは不安でもある。
が、わたしは敢えて遠い所へ行くのだ。ピアノでわたしの目の届かない所へ行く蒼佑を見る前に、自分から離れる。近くにいるのに「今どこにいるか」なんて探さなくて済むように、遠くへ。
『……一人じゃないから大丈夫』
耳に当てたスマートフォンからゆったりとした声が聞こえた。一人じゃない? もう他のマネージャーを見つけたというのか。
「やっと見つけた」
楽器搬入口の階段に腰掛けている人物が目に映り、それが蒼佑だと瞬時に判断する。癖のある髪の毛が寝癖のように跳ね、そこだけ時間の流れがゆっくりだと感じる程の穏やかさを纏った男の子。
「やっぱり千佳ちゃんは僕を見つけるのが上手だね」
「伊達に長年幼馴染やってませんから」
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