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お互い耳に当てていたスマートフォンを耳から離した。ゆっくり近づいて行って蒼佑の隣に腰掛ける。ここは表側の喧騒とは打って変わって、木の葉が擦れる音しか聞こえない。
「僕、今日一位獲れる気がする」
突然の勝利宣言に少々面食らったが、ここまでの頑張りを近くで見ていたので、わたしは力強く頷いた。
「そうだね。ファイナルでオーケストラと演奏したベートーヴェンピアノ協奏曲第5番『皇帝』、最高だったしね」
すると蒼佑は自身の手を差し出し、わたしに握手を求めてきた。
「今までありがとう。千佳ちゃんには感謝しかないよ。ここまで来られたのも、全部千佳ちゃんのおかげ」
「ちょっと待って。まだ結果出てないから。優勝した気でいると、優勝してなかった時かなり落ち込むよ?」
「大丈夫だよ。絶対一位だから。っていうか、一位しかいらない」
今までも小さなコンクールから大きなコンクールまで出場してきたが、ここまで順位にこだわった蒼佑を見たことがない。何がこんなに彼を奮い立たせているのだろう。
「どうしてそんなに一位が良いの?」
蒼佑はいたずらっ子の顔をして答えた。
「内緒」
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